杉山久子の俳句を読む 23年07月号
人の恋かたしろぐさのつめたさに
(句集『鳥と歩く』所収)
「人の恋」という、突き放した言葉が目に飛び込んでくる。友の恋でも肉親の恋でもない。「他人の恋」という意味だろう。しかし、つづく中七下五の平仮名はやさしい。さほど親しくはない誰かの恋愛に思うところがあって、作者にできることはないのかもしれない。
「片白草」という植物の季語は「半夏生(はんげしょう)」の傍題であるが、葉が半分白くなるために半化粧と掛けた名前でもあるから、恋する人は女性のように思える。ドクダミ科なので十薬と同じく独特の臭気を放っている一方、解毒や解熱作用のある生薬にもなる。傷つければ強く臭う。作者がこの白に冷たさを感じたのは、天から毒が降るという謂われから、井戸に蓋をするなどの様々な物忌みが行われる時季である。恋の行方も自ずと知れよう。
叶わぬ恋なのか、道ならぬ恋なのか、すでに失恋しているのか。いずれにせよ、その上で俳句としてわざわざ書くことが、作者がこの「人の恋」に寄り添っていると言えるのではないだろうか。言葉に反して温かい句だ。
片白草には花弁がなく、葉が白くなるのは花弁の代わりに昆虫を誘引するためであり、いずれ緑に戻る。中には戻りきらないものもある。
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