桜② 後ろ姿
①より
そんなわけで犬の散歩に行く度に感傷に浸り、前を歩く手を繋いだリア充に向かって「タンスの角に足の小指ぶつけろ」と小さく呪詛を吐くのだが。
今日前を歩いていたのは仲睦まじげな老夫婦だった。
(私よりも身長的に)小さなふたりはにこやかにゆっくりと桜を眺めながら歩いていく。
なんとなく私は追い抜かすでもなく、前のふたりに歩調を合わせてみた。走りたがっていた犬は不服そうだったけれど。
犬もいたし、盗み聞きをするのは無粋だと思って少し遠くから眺めていただけだからどんな話をしていたのかは分からない。
ただ、桜が綺麗だからなのか、それともふたりで歩いているからなのかは分からないが、ふたりとも心底嬉しそうであった。晴れた日がよく似合う。
ふと余所見をしてまた視線を老夫婦に戻すと、おじいさんの方が桜をバックにしたおばあさんの写真を撮ろうとしていた。
その姿がとても微笑ましく、愛に満ちていて見てるこっちの顔が赤くなりそうなくらい、ふたりだけの世界だったと思う。
川の流れる音も、鳥の鳴き声も耳には入ってきていない。そこにあるのはお互いの声だけ。
――みたいな。
死ぬほど羨ましい(つい本音が)。
(中略)
どうしても桜は儚く感傷に浸ってしまいがちだけれど、こんな微笑ましいものが見られるのならば、桜が舞うのも悪くない。
この情景と妄想だけで何かひとつ物語が書けそうなものである。
私はあの老夫婦がいつまでもふたり一緒で幸せに居られるよう願った。
(追記)
今日久々にカワセミも見れた。明日辺りいいことある、多分。
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