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優しい楽園

日曜日。バリの布を使って作った鞄のお店sisiの裏にあるカフェ、Kafe Topiで開かれている「ワンデーマーケット」にお邪魔してきた。2ヶ月に一度だけのサンデーマーケットの特別版らしい。
いる間に開催されているなんて、得した気分!

数日前にKafe Topiに寄った時はジャカルタ出張中でお会いできなかった尚美さんがいたので、ご挨拶をする。
尚美さんには、私が前回バリに来て大変な目に遭った時に泣きついてすごくお世話になったので、またお会いできて感無量で「その節はどうも…!これ、お礼ですが…」と、日本から持ってきた梅干しと山椒七味を渡したら、「何回お礼いうんですか」とさっくり。

だって、本当に心底こわい思いをして憔悴しきっていた時に、助けていただいた記憶が染み込んでいるので、もう尚美さんの顔を見ると反射的に「たすけてくれた人だ…!」と身体が反応してしまうのです!
最近、カリフォルニアの山火事で救出された猫が消防士にすりすりしまくっている動画を見たけれど、まさにああいう感じ。

でも、尚美さんにとっては、自分が住んでいる場所で困っている人が目の前にいたから、ただその時にできることをしてくれただけなのだと思う。
その時にすることをして、もう終わったことだから、ずっとそれを恩に感じてもらう必要もないし(そんなことされたらかえって重いし)、はい、次にいきましょうという感じがすごく伝わってきた。

人をたくさん助けてきてそれが当たり前になっている人には、みんな割とこういうドライな感じがある。かっこいいなあと思う。

私は結構、受けた恩を石に刻みたくなる武士のようなしつこいタイプなのだけれど、そんな一歩間違ったら落ち武者の怨念みたいにどろどろと感謝され続けるのも確かに重いよね…と思ったので、

「じゃあ、お礼はこれで終わりで!」
「はい、お礼は終わりね」

と、あの時はお礼はこれで終わりになりました。

落ち武者の怨念のような感謝の念は、胸にそっと秘めて生きていこうと思う。

小ぢんまりとしたマーケットは、すごく良い雰囲気だった。

緑がいっぱいのカフェスペースには、かわいい洋服や雑貨、良い香りのする石鹸やアロマグッズ、新鮮な野菜や果物、ココナッツオイルやテンペ、手作りのパンにドーナツ、それからソーセージやベーコンまで盛りだくさん。

来ている人たちも、思い思いにその場を楽しんでいる。
カフェで注文した食事やお茶をしている人もいるし、子どもたちと熟年のご夫婦が折り紙をして遊んでいるテーブルもある。芝生でも、子どもと大人が混じり合ってわいわい遊んではしゃいでいる。

小さい楽園みたいだなあ。
と、前回来た時も思ったのを思い出した。

異国の地に住む日本人同士、お互いに応援し合って、家族ぐるみで気持ちよく過ごせて、もちろん日本人だけじゃなく、現地の人でもほかの国の人でも、ここを見つけてやってくる人なら誰にでも開かれていて、みんなが好きなだけ、安心していられる場所。

そして、それは勝手にそこにできたわけではなくて、尚美さんとパートナーの悟さんが、大切につくり上げてきたものだ。

今回、マーケットが終わってからしっかり悟さんにクラニオの施術をすることになっていた。
私は結構早めに着いて、尚美さんのドーナツを朝ごはんに食べたり、果物を買ったり、お店を出している人たちとしゃべったりした後、その辺に座ってマーケットにやってくる人たちを眺めたりしながら、のんびりしていた。

そうしたら、悟さんが「もうほとんど売れたから、残りの野菜は家に持って帰って食べることにして、今日はもうゆっくりクラニオを受けようと思います」と、笑顔でさっさと店仕舞いを始めた。
私が待っていると思って気を使ってくれたのだと思うのだけれど、気を使っているのも感じさせないくらいにすごく潔く、あっという間に片づけてしまった。

空いていたカフェの席の片隅で施術をしていたら、まだ残っていた人たちが興味を持ってくれて、何人か、私がいる間に受けたいと言ってくれた。

悟さんはにこにこして、「ここでやってたら、みんな何をやってるんだろう?って思ってくれると思って」と言った。

まだマーケットが完全に終わっていないその時間は周りで人がたくさん動いていたし、お客さんが後から来て少しだけセッションを中断しないといけないこともあったりして、きっと本当はもう少し遅い時間、人が少なくなってから、もしかしたらもう少し奥の場所での方が落ち着いて受けられたのではないかと思う。

でも、私の宣伝にもなるように、まだ人が残っている時間に店を早仕舞いして、みんなが見える場所で施術を受けてくれる、悟さんはそういうことをさらっとしてくれる人だ。

お礼を言っても、「いやいや全然大したことないんです!むしろこっちが!」みたいに、なぜかお礼を言われてしまう。その笑顔にはまったく曇りがなく、まっすぐでまぶしいくらい。

こんなにきらきらした顔ができる大人がいるんだ!と思う。

前回はばっちり詐欺に遭ったにもかかわらず、そして、ウブド市場に行けば毎回押しの強いおばちゃんたちに腕を掴まれたり泣き落としをされたりして大体予定外の買い物をする羽目になるにもかかわらず、私の中には「バリで出会う人はみんないい人ばかり!」という強い印象がある。
それは、私が出会った人たちは、ほぼ全員が尚美さんたちの紹介や、Kafe Topiを通してだったことが大きいと思う。

尚美さんも悟さんも、ほんとうに優しい。何かをしてあげなくてはという義務感とか、気負いは全然なくて、ただ、困っている人にはできることをするのが当たり前だし、みんなが嬉しくてハッピーな方がいいでしょう、という風に自然に動いている。

優しさのあるところには、優しい人が集まる。
私みたいに、いっときそこに立ち寄るだけの人間でも、気持ちがふわりとゆるんでひらいていくのがわかる。

こんな、ものすごく優しいふたりの人たちがバリで出会って、家族をつくり、ふたりにそっくりなかわいい子どもたちをとても健やかに育てながら、仕事にもいっぱいにエネルギーを注いでたくさんの価値を生み出して、週末には、人が集い、つながり、お金や喜びが循環する小さなパラダイスみたいな場所をつくっている。

おとぎ話みたいに素敵な話だ!と思う。
そして、それがおとぎ話じゃなくて現実だということがすごく嬉しくなるし、そんな場所があるウブドがやっぱり好きだなあ、と思うのだ。

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