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vol.4-1 『クララとお日さま 』

「君は人の心というものがあると思うか。もちろん、単なる心臓のことじゃないぞ。詩的無意味での『人の心』だ。そんなものがあると思うか。人間一人一人を特別な個人にしている何かがあると思うか。」

人間とは何か。


人間にしかできないことは何か。



科学技術が発達し、人工知能が登場したことにより、人間が人間を問い直さなければならないほど不確かなもので溢れかえる世界になった。


様々なビジネス書で、この科学技術の進化は今後も続き、人間ができることを真剣に考える必要性が叫ばれている。


しかし正直、イメージが湧かない。


AIと共存する世界ってどういうこと?




それを示してくれたのは、私の大好きな日系イギリス人小説家、カズオ・イシグロ氏である。

プロフィール:


今回は、カズオ・イシグロ氏の最新作『クララとお日さま』(2021) (早川書房) を通して、「人間とは何か」について考察する。



あらすじ (本著より抜粋):

人工知能を搭載したロボットのクララは、病弱の少女ジョジーと出会い、やがて二人は友情を育んでゆく。
生きることの意味を問う感動作。愛とは、知性とは、家族とは?


※以下ネタバレ注意※





今回この作品を通して2つの対比を読み取った。

①人間↔︎AF (Artificial Friend)
②感情
↔︎知性


これを軸に考察を進める。


①「人間」と「AF」


この物語の最大のテーマである、「人間」と「人工知能」の共存。


見た目は人間に近い、人工知能を搭載したロボットフレンドの「クララ」。「外の世界」に興味津々で、観察力に優れている。


そんなロボットフレンドを所有するようになる人間。「ジョジー」という少女もその一人である。


クララとジョジーは、単なる「人工知能」と「人間」ではない。



まずは、クララ。物語の語り手でもある「クララ」は、ロボットであるということを読者に忘れさせるぐらいに「人間味」がある。

人間をよく観察し、歩き方や仕草を似せることや、人間の考えや感情まで読み取る力がある。

クララ自身にも多少なりとも「感情」がある。

また、クララは「太陽」を崇拝している。



一方ジョジーは、単なる「人間」ではなさそうだ。

向上処置」というものを受けており、その副作用として病気がちになってしまったようだ。「向上処置」とは具体的に何なのか明示されてはいないが、いわゆる「能力」であると推測できる。



クララとジョジーのキャラクター像から、人間と人工知能の性質が逆転しているような気がしてならない。

人間は「能力」を獲得し、人工知能は「感情」を習得している。



それでもなお変わらないのは、人間と人工知能の主従関係である。


あくまでも人間が上、ロボットが下という階級は存在する。


イシグロ氏は他の作品でも「階級」を物語の骨組みに取り入れている。変わりゆく世界の中で、「階級」はいつまでもなくならないというイシグロ氏のメッセージが伝わってきた。


人工フレンズは「人間」ではない。人間の補助にすぎない。人間もそれを求めている。


人間味溢れるクララを、一番人工ロボットとして扱っていたのは、ジョジーの母親である。


「街で何か用事があるらしいの。あの方、いま運転をしないからね。でも、心配無用よ。全員乗れるスペースがあるから。あなたはトランクの中、なんて話にはならないから」(p.249)


人間と人工ロボットの間に格差があるように、人間界・ロボット界にも格差がある。


人間界では、ジョジーも受けた「向上処置」の有無


ジョジーの幼馴染みのリックは、「向上処置」を受けていないがために社会から孤立しつつある。


一方人工ロボット界の階級は、ロボットの「型」である。


家電と同じように、常に最新のものが製造される。クララは最新型ではなかったため、ジョジーに引き取られるまで、引き取られた後でさえ、最新型と比較されることがあった。


受けられるものは受けた方が良い、新しければ新しいほど良い、といった社会の常識は今後も続いていくのだろう。

しかし、クララがかつていたお店の店長さんは言った。

「お店では言えませんでしたけど、わたしね、あなたの世代に感じた感情を、B3型世代にはどうも感じられませんでしたよ。お客様もそうだったみたいで、あれだけの技術革新を詰め込んだB3型でしたけど、人気はいまひとつでしたね。」(p.432)



外から見れば、新しいものや手に入れられるものは何でも良い訳ではないことに気がつけるのに、自分たちの世界の中では気がつくことができない。


「人間」の世界 と「ロボット」の世界


自分のいる世界を見つめ直すことができるのは、人間だけかもしれない。



つづく。


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#カズオイシグロ   #イギリス小説
#人工知能


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