時間切れ!倫理 128 富永仲基・安藤昌益
富永仲基
富永仲基(1715~46)は大坂の町人。大坂は商人の町ですね。武士もいるけれども数は少ない。大坂城に大坂城代がいるけれども、大坂市内には藩はないですからね。全国の米が集まり蔵屋敷が立ち並ぶ商人の町です。その商人たちがお金を出し合って自分たちで学校を作りました。それが懐徳堂です。試験には出ないかもしれませんが大坂の人なら知っておいてほしいですね。富永仲基はこの懐徳堂で学んで独特の学説を出しました。
彼は、神道、仏教、儒教を思想史的に研究して、加上説という学説を唱えました。近代的な歴史学といってもいいです。「新しい説ほど、古い時代の説だと主張される」という主張です。
わかりやすくお菓子でいうと、非常に有名な饅頭屋があるとする。マゼラン饅頭としましょう。それを真似した饅頭屋が生まれて、本家マゼラン饅頭と名乗る。また別の饅頭屋が元祖マゼラン饅頭を名乗る。本家や元祖は、自分のほうが古いぞ、と言いたいわけですが、本当はただの「マゼラン饅頭」が一番古い。新しいもののほうが、自分は古いと主張する。これが加上説。
それで富永仲基は具体的に何をいったかというと、大乗非仏説。「大乗仏教ってブッダの説いた教えではないよね」といった。その通りです。これで非常に物議を醸しました。
安藤昌益
安藤昌益(?~1762)は、八戸の医者でした。この人は非常にユニークな人物です。江戸時代にこの人だけが封建制度はおかしい、身分制度は間違っているといいました。石田梅岩は当時の常識に反して商業を擁護しますが、身分制度は批判しません。しかし安藤昌益は封建制度をはっきりと批判します。安藤昌益には師匠もいなければ弟子もいない。完全に孤立した思想家で、彼の教えは彼の死後完全に埋もれて忘れ去られていましたが、明治になって再発見されました。江戸時代にもこんなことを主張していた人物がいたのだということで、第二次世界大戦後にさらに評価が高まりました。
著書は『自然真営道』、『統道真伝』。安藤昌益は聖人と呼ばれていた孔子や孟子は、口先だけで人々を騙して働く人々からその労働の成果をだまし取る、そういう連中だといいます。自分で田畑を耕さず、人が働いた成果である農作物を奪い取っていくなどとんでもないではないかといいます。「万人直耕」として、すべての人が田畑を耕すべきだとし、平等社会を理想としました。当然身分制度も否定します。江戸時代のなかで、完全に孤立した、しかしユニークな思想家でした。