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時間切れ!倫理 159 丸山真男

 丸山真男は政治学者、東大の教授です。彼は第二次世界対戦が終わった後、なぜ日本はこのような無謀な戦争に突っ込んでいったのか、なぜ軍国主義を止めることができなかったのか、ということを分析しました。1960年代70年代には広くみんなに読まれました。私も大学に入って彼の本を何冊か買って読みました。丸山真男を読むのは、まともな大学生の常識、という雰囲気が当時はまだあった。『超国家主義の論理と心理』とか、分厚くて高い論文集も買って読んだな。
 「無責任の体系」というのがキーワードです。戦争中に残虐行為をおこなった兵士に責任を問えば、上官に命令されたからしかたなかった、という。その上官の責任を追及すると、彼もさらにその上官に言われたからと、責任を逃れる。自分には責任はなく、責任は上のもの、上のもの、上のものに行く。一番てっぺんの天皇に行くと、天皇も伝統に従っているだけという意識で、責任を負っていない。このように、責任を持って決断したものが誰もいない、ということを分析した論文が一番有名です。
 丸山眞男は、東京大学の大学院生の時に、学徒動員で軍隊に取られています。当時の大学生の人口比率は非常に少なく、大学生は本当のエリートで、将来の日本の政治・経済を担う人々であった。だから戦争の当初は、大学生は兵士にならなくてもよかったのですが、戦争も負けが込んできて、兵力不足になってくると、文化系の大学生は徴兵されて戦場に赴くようになった。政治学を専攻していた丸山眞男も、こうして戦場に行った。
 東京帝国大学の学生であっても、戦場ではペーペーの二等兵から始まります。戦前の日本の軍隊は、完全なるいじめの構造で、一等兵や上等兵は新兵である二等兵を様々な理由をつけて、いじめまくりました。ビンタするなどは日常茶飯事。そういうところに、東京帝国大学の大学院生様が新兵としてやってくる。高等教育とは無縁の、貧しい農村出身の先輩兵士にとっては、娑婆では自分たちには想像もできないような優雅な生活を送る、恵まれたエリートの上に立つことのできる、またとないチャンスです。丸山眞男は散々軍隊で酷い目にあったらしい。日本がなぜこんな野蛮な戦争に突入したのか、ということを考えるのもよくわかります。

   余談になりますが、学徒動員で戦場に赴いた大学生たちは、皆大なり小なり、丸山眞男と同じような経験をしている。軍隊で理不尽な目にあっている。
 戦争を生き延びて、戦後大学に戻った彼らは、やがて卒業して財界や政界で重要な地位についていくわけです。思想的に右から左まで様々な人がいたでしょうが、そういう思想的な違いに関係なく、みんな共通に「軍隊は嫌なところだった」という思いが心の底からあったと思われます。理屈ではなく体験として、軍隊はいやだ、戦争はごめんだ、という思いがあった。そういう人たちが、やがて現役を退き、この世から去っていった1980年代以降、戦争や自衛隊に対する日本社会の接し方が、変化してきたと思います。

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