時間切れ!倫理 164 宗教改革 エラスムス、モア
エラスムス
北方ルネサンスの学者として、一番有名な人物がエラスムス(1466?生)です。現在のオランダ・ベルギーにあたる地域、ネーデルラントの人物です。著作としては『愚神礼賛』。教会の腐敗を批判した風刺小説です。また、学者としてはヨーロッパナンバーワンで、最も有名で権威を持った学者でした。
学者としての仕事では、ローマ教会が発行していた聖書の誤訳を指摘したのです。もともと新約聖書はギリシア語で書かれていましたが、ローマ=カトリック教会は、これをラテン語に翻訳して使っていた。
エラスムスは古代ギリシア語を研究し、ローマ教会の翻訳の誤りを指摘した。これは学問的な成果であって、ローマ=カトリック教会もその誤りを認めざるを得ない。それまではローマ=カトリック教会は絶対に正しい。誤りなど犯すはずがない、だからこそ人々を天国に導く力があるのだ、と考えられていた。エラスムスはローマ=カトリック教会自体を否定したわけではありませんが、ローマ=カトリック教会も間違いを犯すということを、みんなの前に暴露することになったわけです。
トマス=モア
トマス=モア(1478生)は、この教科書では、宗教改革の所で名前を挙げられていますが、宗教改革の思想そのものとは少しずれています。
著作は『ユートピア』。イギリス人で、カトリックの神父さんです。当時のイギリスでは、第一次囲い込み運動が行われていました。背景説明なので覚える必要はありませんが、当時イギリスでは毛織物工業が発展し始めており、羊毛がものすごく売れるようになっていました。羊を飼えば儲かるので、地主達は羊をたくさん育てようと考えました。ところが土地には、小作人がいて、小麦などを作って農業をしている。羊を飼うには、彼らが邪魔なので力づくで追い出して、広い土地を柵で囲って羊を飼いました。その結果、農村から追い出された農民たちは浮浪者・貧民になって都市に流れ込み、社会問題になっていました。
彼はそのような社会状況を風刺し、理想社会を描きました。この本の中で「羊が人間を食べている」という文章が有名なのですが、羊が人間を食べるはずがありません。これは当時の囲い込み運動を皮肉っている表現です。
また、ユートピアというのはトマス=モアの造語です。理想郷と日本語で訳していますが、一般名詞になっていますね。話の設定としては、大航海時代が背景にあり、赤道直下のユートピアという国に旅した船乗りから、トマス=モア自身が、その国の様子を聞くという体裁をとっています。
ユートピア国は理想的な国であり、それと対比してイギリス社会の矛盾を指摘しているのです。トマス=モアは、国王ヘンリ8世に仕えていましたが、国王は離婚して愛人と再婚しようと考えていた。当時、大法官、現在で言えば最高裁判所の長官のような役職についていたトマス=モアは、国王の離婚に反対します。カトリックでは離婚は許されていなかったからです。そのため、 最終的に国王の怒りを買い処刑されてしまいました。
カトリックでは離婚が許されないため、ヘンリ8世は、イングランド王国をまるごとカトリック教会から離脱させ、イギリス国教会を創設することになります。これが、イギリスの宗教改革です。