僕の「電カル」奮闘記 その2
次々と露呈したソフトの未熟さ
「一体型」として発売したにも関わらず、その実態は「連動型」だったRX。実際に診療が始まると、一体型ではなかったことによって僕らが感じていた不便さだけではなく、それ以外にも次々と不具合が見つかりました。
なんと、発売時に配布されたパンフレットには書いてあるのに、なぜかできないといった事態に度々遭遇したのです。
たとえば、パンフレットには「カルテを入力しながらその時点での点数の確認を行うことができ、各種の自動算定も反映されます。」と書かれていました。今時の電子カルテでは、これはできて当たり前のことです。自動車に例えると、「ハンドルはパワステです」と言っているようなもので、自慢する機能ではありません。
ところが、RXは、自らパンフレットに書いてあった、この当たり前のことすらできなかったのです。
本来、電子カルテに処置や処方を入力すると、初診料・再診料、血液検査の判断料、特定疾患の管理料などは自動で計算され、診療中でも会計の確認はできるはずでした。でも、RXは、診療中にカルテ画面で会計を確認すると、自動算定されない時があったのです。困ったことに、すべて自動計算されないわけではなく、自動計算が正しく出る時もあります。患者さんの自己負担額がいくらなのか診療中に気になることがあるのですが、正しく出たり、出なかったりと挙動が不安定なので、ざっくりした計算としても使えません。
ただ、カルテ画面では正しく算定されていなくても、会計では大半が適正に算定されていました。「会計が間違ってないのだから、いいじゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、僕はどうしてもそこが気になりました。
この電子カルテの売りは、医療事務機能と電子カルテ機能が一体化されていることだったはずです。一体型であればカルテから見た会計と、受付から見た会計は同じはずなのに、なぜ異なる会計が出てしまうのか……?
「この電子カルテが、希望通りの一体型であれば、こんなことは起こらなかったはずなのに……」という思いをぬぐいさることができなかったのです。
「会計が間違っていないのだから、いいじゃないか」と書きましたが、時には不正請求につながりかねない会計の誤りもありました。
たとえば、血液検査と胃カメラを行った患者さんのケースでは、当日の会計は正しく行われたのですが、後日、保険請求をする際、なぜか血液検査と胃カメラが2回行われたことになっていました。電子カルテの画面では1回の検査になっているのに。おそらく、電子カルテで検査所見を書き加えて、何度か一時保存している間に、データが重複してレセコンに送られてしまったのでしょう。一体型であれば起こりえない不正請求でした。いやたとえ、連動型であっても、電子カルテからレセコンに上書きしているのであれば、起こりえないバグだと思います。
血液検査の算定でも、気になる不具合がありました。通常、血液検査は、一度に算定ができる項目数に上限があるので、一定以上の項目を検査した場合は、上限額を超えないように、レセコンが自動算定してくれます。RXも、生化学などの一般的な血液検査は自動算定できていたのですが、アレルギー検査では不具合が出るのです。
アレルギー検査として特異的lgE(アレルギーを引き起こす原因物質を特定するための検査)を測定すると、既定の上限を超えても、そのまま算定されてしまいます。システム・ベンダーに問い合わせると、RXでは自動計算できるようになっておらず、ベンダーの技術者が診療報酬のマニュアルや検査会社の検査案内を見ながら条件設定しているとのこと。技術者が解釈を誤り、設定ミスしていたため、間違った算定が行われていたのです。
電子カルテやレセコンなら、白本(診療報酬の点数便覧)に出てくる程度の自動計算は、当然、標準装備されていると思っていたのですが、RXは、診療報酬計算のアルゴリズムの一部をシステム・ベンダーに丸投げしていたのです。これでは、RXはたんなるハリボテで、実際にはエクセル程度のプラットフォームを提供しているのと変わりありません。
発売間もない頃は、どんなソフトでも多少のバグはあるはずですが、当院がRXを導入したのは、発売からすでに3~4カ月たっていました。それなのに、次々と現れるバグに、「いったいメーカーは、発売前にデバッグしたのだろうか」という疑問もわいてきました。
そもそも電子カルテ上での会計点数確認のように、パンフレットに「できる」と書いてあったことができないのは、虚偽記載と言われても仕方ありません。
これほどまでのバグの多さは、自動車ならリコールの対象になるでしょう。しかし、メーカーにその自覚はなく、行政も業界団体も電子カルテについて医療機器として品質を管理している団体はありません。またレセコンは診療報酬の請求になくてはならないものですから簡単にリコールされて使えなくなっても困るという一面もあります。いったん導入したシステムは、そう簡単に変えられるものではありません。
かくいう僕も、バグを見つけるたびに、ベンダーに連絡を入れて、ひとつひとつトラブルを解消していくことで、なんとかだましだまし、RXを使い続けることになりました。
それでも、どうしても見過ごせないトラブルが起こったのです。
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