手紙なる一族 1 (全6回)
金の無心のために街を歩いているとき、見ず知らずの男が話かけてきた。まさか私にお金を貸してくれるのか? そう期待して立ち止まったものの、もちろんそんなわけなかった。たとえ「お金をください。なんでもします。」という看板を首からぶら下げていたとしても、道ゆく中年にいきなり資金援助を持ちかける者などいない。
第一その男の身なりは、今日出会った者の中で一番ひどかった。ジャケットこそ着ているものの、ほつれと毛玉のない箇所を見つけるのが難しい古びたウールだった。シャツだって、これまで一度