マガジンのカバー画像

小説 月面ラジオ

72
30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。
運営しているクリエイター

2021年3月の記事一覧

月面ラジオ {58 : 式典 }

月面ラジオ {58 : 式典 }

あらすじ:想い人の青野彦丸を追いかけて、月美は月面ではたらき始めた。そして、彦丸のいる会社「ルナスケープ社」に派遣されることになった。



{ 第1章, 前回: 第57章 }



月美が初めて木土往還宇宙船に乗船したとき、ここはまだガラスとコンクリートと配管がむき出しの広場だった。だだっ広いだけで、とくに思うところはなかった。でも、赤色の絨毯をしきつめ、雪のように鮮やかな壁紙を貼りつけ、シ

もっとみる
月面ラジオ {59 : トイレ }

月面ラジオ {59 : トイレ }

あらすじ:月美は、木土往還宇宙船の完成式典に(無断で)参加していた。

{ 第1章, 前回: 第58章 }



青野彦丸は、階段の踊り場で立ち止まった。大広間を見渡し、そしてゆっくりしゃべり始めた。



いまこの場にいるすべての人に感謝します。みなさまの力がなければ、木土往還宇宙船だなんて途方もないモノ、決して作ることはできなかったでしょう。感謝のひとつに過ぎませんが、このささやかな式典を

もっとみる
月面ラジオ {60 : 廃墟の船 }

月面ラジオ {60 : 廃墟の船 }

あらすじ:月美は、木土往還宇宙船の完成式典に(無断で)参加していた。

{ 第1章, 前回: 第59章 }



あまりの寒さに目がさめた。あらためて布団にくるまったけど、異常なことが起こっていることに気がついて、月美は体を起こした。あたりは真っ暗だった。ここがどこなのかわからなかったけど、医務室で寝ていたことをしばらくして思い出した。非常灯と思わしきオレンジ色の光を除いて、医務室の灯りは消えて

もっとみる
月面ラジオ {61 : コスモジャック }

月面ラジオ {61 : コスモジャック }

あらすじ:月美は、木土往還宇宙船の完成式典に(無断で)参加していた。

{ 第1章, 前回: 第60章 }



完成式典の夜、ユエは木土往還宇宙船の支配者となった。

もし「いつから船を乗っとるつもりだったのか?」と聞かれたら、「船を作り始める前から」と、ユエは答えるだろう。乗っ取りを決意した日のことは、今でもよく憶えている。なぜならグルアーニー先生が、ユエと彦丸のもとを去った日だからだ。ラジ

もっとみる
月面ラジオ {62 : さまよう船 }

月面ラジオ {62 : さまよう船 }

あらすじ:木土往還宇宙船の完成式典に(無断で)参加した月美は、ひとり船に取り残された。

{ 第1章, 前回: 第61章 }



木土往還宇宙船の送迎船が三隻、続けざまに港に着陸した。船尾から吹き出る炎が、港の地面を焼いた。月面港の到着ロビーでその様子を眺めながら、芽衣は式典のことを思い出して子どものようにはしゃいでいた。

クルーとしてではないけれど、あの木土往還宇宙船に乗船できたのだ。その

もっとみる
月面ラジオ {63 : 三〇七 }

月面ラジオ {63 : 三〇七 }

あらすじ:木土往還宇宙船の完成式典に(無断で)参加した月美は、ひとり船に取り残された。

{ 第1章, 前回: 第62章 }



芽衣たちとの通信が途切れた。ディスプレイを兼ねた運転席正面の窓には、芽衣とアルジャーノン、ルナ・エスケープの同僚たちの姿がさっきまであったはずなのに、いまはユエひとりが映っている。真っ赤なドレスを着たユエが急に現れたものだから、月美は目を見張った。いったいどういうこ

もっとみる
月面ラジオ {64 : ランデブー }

月面ラジオ {64 : ランデブー }

あらすじ:木土往還宇宙船の完成式典に(無断で)参加した月美は、ひとり船に取り残された。

{ 第1章, 前回: 第63章 }



ユエが木土往還宇宙船を乗っ取っているなど頑なに信じなかった青野さんも(自分の娘が宇宙船を強奪中だと言われて、すぐに納得する親がいたら逆にびっくりだ)、航行しているはずの軌道から船が消えているのを見て、考えを改めなければならないと気づいたようだ。

芽衣たちは、青野さ

もっとみる