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小説 月面ラジオ

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30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。
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2021年2月の記事一覧

月面ラジオ {53 : 彦丸号 }

月面ラジオ {53 : 彦丸号 }

あらすじ1:月美の想い人・青野彦丸は、月で宇宙船を作っている。
あらすじ2:月美の姪の芽衣は、月面大学の大学生だ。月と地球との間で失踪した宇宙船の事後原因を、大学の同級生たちと調査している。



{ 第1章, 前回: 第52章 }



お母さんが木土往還宇宙船のクルーに反対した。「外惑星に行きたい」という芽衣にきっぱりとダメだと言ったのだ。おどろいたというよりも、芽衣は失望して言葉がなかっ

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月面ラジオ {54 : 彦丸号(2) }

月面ラジオ {54 : 彦丸号(2) }

あらすじ1:月美の想い人・青野彦丸は、月で宇宙船を作っている。
あらすじ2:月美の姪の芽衣は、月面大学の大学生だ。月と地球との間で失踪した宇宙船の事後原因を、大学の同級生たちと調査している。



{ 第1章, 前回: 第53章 }



芽衣は、クリップ留めした紙の束を机の上においた。わざと表紙を印字しなかったので、一番上のページは真っ白なままだった。

「いいね。『極秘』って書いてあるより

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月面ラジオ {55 : 木土往還宇宙船 }

月面ラジオ {55 : 木土往還宇宙船 }

想い人の青野彦丸を追いかけて、月ではたらき始めた月美は、彦丸のいる会社「ルナスケープ社」に派遣されることになった。



{ 第1章, 前回: 第54章 }



「おどろいたな。本物の土のにおいだ。」
 月美は言った。
「船の中にこんな場所があるだなんて。」

「中央庭園です。」
 と、ロニー。
「この船で二番目に広い空間です。我々はここを『庭園』と呼んでいます。」

ここは、まさしく庭だっ

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月面ラジオ {56 : ユエ }

月面ラジオ {56 : ユエ }

木土往還宇宙船のクルーに選ばれて当然と自負するユエだが、いまだクルーの試験の合格通知が届いていなかった。



{ 第1章, 前回: 第55章 }



会議室ではネルソンの声が響いていた。まるでゴムタイヤから出てきたような野太い声は、いつもより格段に穏やかで、喋り方も歩くようにゆっくりだった。記者会見が終わったからだろうか、ネルソンは機嫌がよかった。十六人にのぼる会議参加者も、記者会見が無事

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月面ラジオ {57 : 雨 }

月面ラジオ {57 : 雨 }

あらすじ1:想い人の青野彦丸を追いかけて、月美は月面ではたらき始めた。そして、彦丸のいる会社「ルナスケープ社」に派遣されることになった。
あらすじ2:彦丸は、娘のユエに「木土往還宇宙船」の乗船クルー選抜試験の不合格を告げた。



{ 第1章, 前回: 第56章 }



月面港のラウンジに差す陽光は、夕方でも明るく白っぽかった。月から見る太陽は赤くならず、夕日も味気ないのだ。宇宙標準時で深夜

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