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小説 月面ラジオ

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30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。
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2020年9月の記事一覧

月面ラジオ { 31: ルナ・エスケープ(2) }

月面ラジオ { 31: ルナ・エスケープ(2) }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 月美は、新しい就職先の会社にやってきたはずなのに、なぜか月面都市の外の施設に連れてこられました。



{ 第1章, 前回: 第30章 }



自動ドアが開いた。月美たちはバスケットコートくらいの広い部屋に入った。

「ここがルナスケープの開発室だ。」
 ホークショットが言った。

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月面ラジオ { 32: 彦丸 }

月面ラジオ { 32: 彦丸 }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 月美は、月で働くことになりました。



{ 第1章, 前回: 第31章 }



男は会議室に入り部屋を見回した。
十七人までが一堂に会するドーナツ型の円卓があった。
まだ誰も着席していなかった。

黒い布ばりの椅子は、これから広告の写真でも撮るつもりなのか、一切の乱れなく、正確に

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月面ラジオ { 33: 彦丸(2) }

月面ラジオ { 33: 彦丸(2) }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 月美は、月で働くことになりました。



{ 第1章, 前回: 第32章 }



世界が起動した。
起動のさなか、まだぼんやりとする視界の中で三行のメッセージだけがはっきりと見えた。

五月七日 午前十一時〇七分
月衛星軌道ルナスケープ社第一ドック
監督室

やがて、ぼけていたピン

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月面ラジオ { 34: 天文台 }

月面ラジオ { 34: 天文台 }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 月で働くことになった月美は、砂漠の僻地に閉じ込められました。



{ 第1章, 前回: 第33章 }



「月美、仕事をしなくていいのかい?」
 粗茶二号がたずねた。

「しないとだめだよ。」
 月美は答えた。
「ただでさえ作業が遅れているのに。」

「ならここで何をしているんだ

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月面ラジオ { 35: 天文台(2) }

月面ラジオ { 35: 天文台(2) }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 月で働くことになった月美は、砂漠の僻地に閉じ込められました。



{ 第1章, 前回: 第34章 }



結局、月美はアルジャーノンと連絡をとれなかった。
マニーもハッパリアスも、社長の連絡先なんて知らないよ、と言い切ったからだ。
そして、月面ラボからの脱出もかなわないまま、さら

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月面ラジオ { 36: 天文台(3) }

月面ラジオ { 36: 天文台(3) }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 月で働くことになった月美は、砂漠の僻地に閉じ込められました。これから脱走します。



{ 第1章, 前回: 第35章 }



部屋は想像したよりも広々としていて、砂漠側の壁は一面ガラスばりだった。
ガラスの壁は斜めに立てかける設計で、今にもこちらに倒れてきそうだ。
「宇宙に家を建

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月面ラジオ { 37: 月面大学 }

月面ラジオ { 37: 月面大学 }

あらすじ:初恋の人を追いかけ、月で働くことになった月美は、砂漠の僻地に閉じ込められ、脱走しました。



{ 第1章, 前回: 第36章 }



ミクロネシアの島をモデルにした朝やけが月面都市をつつんだ。
やがて人工の空が海のように青くなるころ、西大寺芽衣の一日もまたいつもと同じように始まるのだった。

顔洗って、歯を磨き、チェックのシャツに着替え、リュックサックを背負い、芽衣は寮を出た。

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月面ラジオ { 38: 月面大学(2) }

月面ラジオ { 38: 月面大学(2) }

あらすじ:初恋の人を追いかけ、月で働くことになった月美は、砂漠の僻地に閉じ込められ、脱走しました。



{ 第1章, 前回: 第37章 }



仮想空間ではなく、こうしてじかに会うのは久しぶりだけど、芽衣がやたらと成長していることに月美は気づいた。
低重力の月にいるだけで身長はいくらか伸びるけど、それにも増して大きくなっている。
髪ものびていた。
スーツの代わりに悲惨なチェックのシャツを着

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