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小説 月面ラジオ

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30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。
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2020年7月の記事一覧

月面ラジオ { 11: "手作り望遠鏡(3)" }

月面ラジオ { 11: "手作り望遠鏡(3)" }

あらすじ: (1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。 (2) 変な男の子ふたりと出会った月美は、望遠鏡を作ることになりました。



{ 第1章, 前回: 第10章 }



こんな夏休み、月美にとって最初で最後だったけれど、その年の夏休みはすべて「望遠鏡の制作」に捧げられた。最初の二日間は設計作業だ。
担当の子安くんは、徹夜で考えた図面を

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月面ラジオ { 12: "月美の青春" }

月面ラジオ { 12: "月美の青春" }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 中学生の月美は、彦丸という男の子のことを好きになりました。



{ 第1章, 前回: 第11章 }



青野家の屋根に不審な人影があった。
人影を見つけたのは、受験勉強をしている最中のことだった。

月美は、自分の部屋で歴史の教科書を読んでいた。
けれど、大昔の政治改革について勉

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月面ラジオ { 13: "月美の青春(2)" }

月面ラジオ { 13: "月美の青春(2)" }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 中学生の月美は、彦丸という男の子のことを好きになりました。



{ 第1章, 前回: 第12章 }



彦丸と子安くんは月美よりも二つ年上だ。だから月美が中学二年生になると二人とも高校生になってしまった。
学校はもう別々なのだ。

全員が中学生だったころに比べ、平日の昼間から三人

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月面ラジオ { 14: "月美の青春(3)" }

月面ラジオ { 14: "月美の青春(3)" }

あらすじ:30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 中学生の月美は、彦丸という男の子のことを好きになりましたが、その彦丸は逮捕された上、停学になりました。



{ 第1章, 前回: 第13章 }



彦丸の停学があける前の日月美は子安くんと彦丸の家をおとずれた。
ここしばらく彦丸に連絡しても返事がないからだ。
「風邪かもしれないので、お見

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月面ラジオ { 15: "月美の青春の終わり" }

月面ラジオ { 15: "月美の青春の終わり" }

あらすじ:30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。



{ 第1章, 前回: 第14章 }



さて。
高校生がひとりいなくなったのでひと騒ぎ起こった。
彦丸の停学はあけたはずなのに、しばらくたっても登校する気配がなく、高校の教師たちが心配しはじめたのだ。
あたりまえだろう。
孫が失踪して、知らぬ存ぜぬで押し通すおじいさんの方がおかしい。
まも

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月面ラジオ { 16: "月美の青春の終わり(2)" }

月面ラジオ { 16: "月美の青春の終わり(2)" }

あらすじ:30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。



{ 第1章, 前回: 第15章 }



その夜、月美は決意せざるをえなかった。いや、だいぶ前から心に決めていたことを思い出し、改めて決意しなおしたと言う方が正確かもしれない。

月美は、自分の思いの丈を彦丸に伝えることにした。
はっきりと本人の前で自分の願いを口にするのだ。
彦丸と一緒にい

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月面ラジオ { 17: "昼の博物館" }

月面ラジオ { 17: "昼の博物館" }

あらすじ:(1)30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 失恋した月美はダメな大人になりました。



{ 第1章, 前回: 第16章 }



「この中で空を飛べる人はいますか?」

大草原のただ中で、その草原よりもはるかに大きな空を仰ぎつつ、しかし吐き気をもよおしながら月美は尋ねた。
目の前の景色はこんなにも鮮やかで、吹く風にも色がつきそ

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月面ラジオ { 18: "昼の博物館(2)" }

月面ラジオ { 18: "昼の博物館(2)" }

あらすじ:(1)30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 失恋した月美はダメな大人になりました。



{ 第1章, 前回: 第17章 }



東京は、世界一の過密都市だ。
一度見ればわかる、というのが月美の意見だった。

都市を形作る摩天楼は、凝縮された都市経済を養分にして育った樹海そのものだ。
巨大なビルの中には、レストラン、商店、ホテ

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月面ラジオ { 19: "六畳一間とつながるスラム" }

月面ラジオ { 19: "六畳一間とつながるスラム" }

あらすじ:(1)30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 失恋した月美はダメな大人になりました。



{ 第1章, 前回: 第18章 }



芽衣と出会ってから九年がたった。
お手製のパラボラアンテナで月面反射通信をしていた姪の芽衣だ。
月美は、高層マンションの屋上で芽衣と話した満月の夜のことをまだ憶えている。

留守がちな芽衣の両親に代

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月面ラジオ { 20: "六畳一間とつながるスラム(2)" }

月面ラジオ { 20: "六畳一間とつながるスラム(2)" }

あらすじ:(1)30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 失恋した月美はダメな大人になりました。



{ 第1章, 前回: 第19章 }



白い壁にたくさんの花が咲いたようだった。立ちならぶ家の壁の落書きが、オレンジ色の街灯の下で花畑のようなのだ。

壁紙スクリーンに夜の街が映しだされていた。
ブラジルの街、ファベーラ・サンタ・マルタだ

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月面ラジオ { 21: "夜の博物館" }

月面ラジオ { 21: "夜の博物館" }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) おとなになった月美は、研究者にりました。研究者として、月を目指しています。



{ 第1章, 前回: 第20章 }



次の学会のために月美は研究論文を書かなければならなかった。
実験はもう終わっている。
あとは原稿を書くだけなので気は楽だった。

週に二回ほど、講義をするために

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月面ラジオ { 22: "空港" }

月面ラジオ { 22: "空港" }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) おとなになった月美は、研究者にりました。研究者として、月を目指しています。



{ 第1章, 前回: 第21章 }



「なんで、わざわざ現地まで行くんだ? 大学の入学面接なんて、自宅でも受けられるだろ?」

「これだけ技術が発達しちゃうとね。現地で面接するのも、仮想空間で面接す

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月面ラジオ { 23: "宇宙" }

月面ラジオ { 23: "宇宙" }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 月美はついに宇宙にやってきました。



{ 第1章, 前回: 第22章 }



「コズミックライン一七二九便、当機は高度二十万メートルを超え、衛星軌道に入りました。乗客のみなさま……宇宙へようこそ!」

機内の緊張は、まだほぐれてはいなかった。
なにしろ上空三万メートルでいったん

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月面ラジオ { 24: "宇宙(2)" }

月面ラジオ { 24: "宇宙(2)" }

あらすじ:(1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。(2) 月美はついに宇宙にやってきました。



{ 第1章, 前回: 第23章 }



暗い窓が鏡のように月美を映していた。
像の向こうでは、宇宙がどこまでも拡がっている。
月美の長い黒髪は、宇宙に同化したようで見えづらかった。

月美はホテル・ラグランジュの寝室にいた。
灰色のとても静

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