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かなもと
2020年6月21日 07:21
30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。よろしくお願いします。◇夜空にアンテナを向けているのは十三歳の少女だった。「わたしの言葉は粒子になるの。」 少女はつぶやいた。「粒子?」 月美は首をかしげた。「秒速三〇万キロで動く光の粒子。粒子は空をこえて宇宙をつき進むの。そして月ではね返って私たちのもとへ帰ってくる。たった三秒間の長い旅
2020年6月21日 07:29
◇この世でもっとも顔の大きい人間がいるとしたら? その栄光は、私の姉に輝くだろう。月美の姉「西大寺陽子」の顔が、アパートの壁一面にひろがって映しだされていた。中古の「壁紙スクリーン」を月美は買ったばかりだった。普段はただの白い壁紙だけど、好きなときに映画や衛星放送を映せるというすぐれものだ。タバコで黄ばんだ壁紙をかえるついでに、部屋をまるごとデジタル化してみたわけだ。せっかくだ。
2020年6月21日 08:59
30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。◇前回◇次の夜、大学の研究室の帰りに陽子の自宅をたずねた。都内の高層マンションの十九階だった。ただのマンションではない。中二階の吹き抜けの部屋で、月美の住んでいる二階建てアパートの建物とおなじくらいの広さだった。おどろきだ。さらにおどろくことに、陽子の住むマンションは地下鉄の改札と直通
2020年6月21日 19:07
30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。◇{ 1: 第1章, 2: 前回 }◇陽子の部屋を出て月美はエレベーターに乗った。「屋上は禁煙でございます。ご協力くださるようお願いします」というアナウンスが天井から流れた。エレベーターから出ると禁煙マークの看板があった。月美はタバコの火を看板に押しつけたい気持ちになった。屋上は芝生で囲ま
2020年6月22日 19:26
あらすじ = [ "30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます”, "今日は、主人公の月美が彼と出会った過去の物語です ” ]◇{ 第1章, 前回: 第3章 } ◇お父さんとお母さんへ。しばらく旅に出ます。一週間くらいで帰るから心配しないでください。くれぐれも通報しないこと。私はぶじだから。陽子によろしく。「うん、なかなか。」
2020年6月23日 23:23
30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。◇{ 第1章, 前回: 第4章 } ◇月美が唯一幸運だと思えることがあるとすれば、それは、たまたま家出の最中で、自分のリュックサックの中に替えの服があったことだろう。ずぶ濡れになった服をサックにしまったころ、少年が天文台の中に戻ってきた。月美は少年・青野彦丸を睨んだ。ビショビショにされただ
2020年6月24日 20:36
30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。◇{ 第1章, 前回: 第5章 }◇天体少年のふたりが、太陽観測のやり方を月美に教えてくれた。観測のやり方は二種類あるそうだ。ひとつは投影板という道具をつかう方法だ。これは映画館のスクリーンのミニチュアみたいな道具だ。望遠鏡の覗き穴の先にとりつけ、その状態で望遠鏡を太陽にむけると、陽光がレ
2020年6月25日 19:55
30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。◇{ 第1章, 前回: 第6章 }◇所長室の扉をあけると、彦丸が机にかぶりついていた。洗剤で机や窓をみがいていると思いきや、彦丸はなにやら必死の形相で電卓を叩いているところだった。「掃除は?」 月美はたずねた。電卓を打ちながら、彦丸はアゴで部屋の隅をさした。見ると、部屋の角にちりとり
2020年6月26日 20:43
30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。◇{ 第1章, 前回: 第7章 }◇月美、彦丸、子安くんの三人は、二階の講義室に移動した。講義室はまっ暗だった。窓のそばにある綱を彦丸が引っ張っると、引きずるような音とともにカーテンが開いた。光が講義室を満たし、月美は眩しくて目をつむった。かつてこの教室には、宇宙の果てに思いを馳せ、その深
2020年6月27日 22:19
あらすじ: (1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。 (2) 変な男の子ふたりと出会った月美は、望遠鏡を作ることになりました。◇{ 第1章, 前回: 第8章 }◇次の日の朝。月美、彦丸、子安くんの三人は、朝焼けの中で朝食をすませて山をおりた。坂道をくだって町まで戻り、いったん別れて家に帰った。お風呂に入って休憩し、お昼ごはん
2020年6月29日 19:51
あらすじ: (1) 30代のおばさんが、宇宙飛行士になった初恋の人を追いかけて月までストーカーに行きます。 (2) 変な男の子ふたりと出会った月美は、望遠鏡を作ることになりました。◇{ 第1章, 前回: 第9章 }◇次の日、月美はハムエッグとトーストを食べてから工場にやってきた。まだ朝の八時半だ。かなり早く来たのに、一番乗りは子安くんだった。子安くんは、お父さんから借りた作業服