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変なシリーズ:「メトロポリスで生きるには②」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。

今回はだーいぶ前に自分で書いてほったらかしにしていた作品を。
せっかくなので、シリーズ化してみようかなと。

少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。


【メトロポリスで生きるには②】

作:カナモノユウキ


《登場人物》
・アダム:タクシードライバー
・イヴ:貴族の娘

ラジオからは興味もないクラシックが流れ込み、後部座席にはふり続ける雨を眺める女性。

「…結局何処まで行きたいんだい?」
「分かんない、行けるとこまで…行きたい。ホラ…この中身が尽きるまで、走って。」
「…分かった。」

彼女が広げた財布には、それなりの札束と見たことのない色をしたクレジットカードが入っていた。
タクシー運転手としてはラッキーなのだろうが、今の自分の心境はとても複雑だ。

「ねぇ、ハイウェイの終着点て…どんなとこなの?」
「…さぁな、誰も行きたがらないから。」
「私の手持ちで、行けるかな?」
「恐らく行けるが…。」
「途中まででいいから運んでよ。…ね、お願い。」
「…俺は【ゲート】を越えられないが…いいのか?」
「うん…もう、ここに居たくないの。」

土砂降りの雨を裂くように、スピードを上げて高速道路を走る。
外を眺める後部座席の彼女。
今日出会った、ただの運転手とその客のはずなのに。
なんだか妙な使命感が自分を掻き立てる…コレは一体何なんだろうか。


「運転手さん、名前なんて言うの?」
「…そこに書いてるだろ。」
「お兄さんの言葉で聞きたい。」
「…アダムだ。」
「アダム…カッコいい名前だね。」
「貴女の名前は、何て言うんですか?」
「…お客さんの名前って、必要?」
「お客さんには必要ないけど、俺には必要だと思って…嫌なら断ってくれて構わない。」
「…イヴ。」
「イヴ、綺麗な名前だな。」
「…みんなそう言ってくれる。」
「だろうね、それに切ない名前だ。」
「…そうかな?」
「だって、イブって言ったら知恵の実を食べて楽園を追放された女性の名前じゃないか。」
「それを言うなら、お兄さんの名前も切ないね。…アダムって。」
「そうだな、変な偶然もあるもんだ。」
「…偶然よりは、必然が良いな。」
「どうして?」
「こんなトコから逃げ出すなら、最良の相手ってことだから。」
「…なるほどね。」

窓の外には巨大で無機質な高層ビルが立ち並び、まるで宮殿の壁の様だ。
メトロポリス第七階層、【セレーネ】の景色はどこも無機質で…俺には最高級の檻にしか見えないがな。
…このイヴも、檻と感じたんだろうか。


「まだ、街を抜けられないの?」
「もう少しだが…本当にいいのか?」
「…いいの、何度も言わせないで。」
「この先のゲートを越えると、【セレーネ】には戻れないんだぞ?」
「…分かってる。」
「裕福な身分を失い、自分の価値ってやつも下がるんだぞ?」
「私の価値は、私が決めたいの。こんな世界に、私の価値は決めさせない。」

その時、ラジオから緊急ニュースが流れて来た。
『昨日から行方が分からなくなっているロイヤルファミリーの一人、マイルス・イヴ様の失踪に関する情報が入り。
タクシーに乗って西の【ゲート】に向かったとタレコミがあったとのことが分かりました。捜査当局は現在全力で
イヴ様を追っているとのことです。』
後方からパトカーのサイレンが近づいてくる。
その音を聴いて怯え始めたイヴがバックミラーから見えて、俺はアクセルを踏み込むことに決めた。

「ちょっと…どうして…。」
「分からんが、これは必然なんだろ?それに俺はまだ貴女を目的地に運んでいない。」
「アダムも…ゲートを越えなきゃいけなくなるよ?」
「…構わんさ、【セレーネ】に漂う富裕層の空気ってヤツが俺には合わなかったしな。」
「…今日、会ったばかりの女の為に…今の生活を捨てるつもり?」
「不思議なんだが、それでも構わないと思っている。」
「…変な人だね、アダムって。」
「よく言われるよ。」

大きくなるサイレン、追手の数は増える一方だが。
彼女をあのゲートの向こうまで運べば、俺の仕事は完了する。
メトロポリスにはいくつか掟がある。
〝一つの階層を出れば二度とそこには戻れない〟
これは全ての住人に適応される、それは警察も政治家も一緒だ。
だからこそ、後ろの追手はゲートの外にはやって来れない。

「さぁ、ゲートを越えるぞ。」
「…ありがとう、アダム。」
「ゲートを越えたら、イヴのことを教えてくれよ。きっと、タクシードライバーは廃業だからさ。」
「分かった。ゲートを越えたら…教えてあげるよ。」

スピードを上げて、ハイウェイを走り抜ける。
気付くと摩天楼は等に後方に消えて、追っても近づくのを止めた。
大きく聳え立つ【ゲート】が見えて来た。
俺はその先の光に向けて車を走らせる。

楽園と呼ばれた箱庭を追放された、アダムとイヴの様に。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

…これだけ読んでも、何読まされたんだろうってなりますよね。

僕もそう思います。

僕的には、ボイスドラマとか声劇でなんか演じたもらった時に良い雰囲気になったらいいなぁ~って思いながら書いたらこんな感じになりましたね。

なので、誰かいい相手が居て、洋画っぽい雰囲気で演技したい人が居たら…やってみてください。

使えたらの…話ですが。(笑)

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


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