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ショートショート:「道の先には居ない」



【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノです。

昨日とはちょっと違う、入れ替わり。

少しの間でも、誰かに寄り添えることを願います。


【道の先には居ない】

作:カナモノユウキ


《登場人物》

・主人公(俺)
・黒いコートの男
・杉本


 仕事帰り、いつもの道を歩いていた。

 時刻は夜の八時。季節は秋。冷たい風が頬を撫でる。

 会社から自宅までの道のりは約二十分。何年も同じ道を通っているから、目をつぶっていても歩けるくらいだ。

 特に特徴のない住宅街。商店がぽつぽつと並ぶだけの、ありふれた景色。

 けれど、俺には一つだけ気になっていることがあった。

 この道では、必ず「同じ人」にすれ違う。

 年齢は三十代後半くらいの男。黒いコートを着て、無表情で歩いている。

 毎日ではないが、週に三回は必ず遭遇する。
 特に話したこともないし、相手が気にしている素振りもない。

 しかし、俺の中には常に小さな疑問があった。

 なぜ、俺と同じタイミングで、同じ道を通るのか?


 そんな疑問を持ちながらも、特に気にすることなく日々を過ごしていた。

 だが、その日── いつもの時間、いつもの道を歩いているのに、そいつがいなかった。

 すれ違うはずの場所まで来ても、姿が見えない。

 「……いない?」

 こんなことは初めてだった。
 ただの偶然かもしれない。しかし、それだけで妙な不安が胸に広がった。

 その日は何事もなく家に着き、風呂に入り、飯を食い、ベッドに潜った。

 しかし、なぜか寝つけなかった。


 翌日。

 会社の同僚、杉本に何気なく話してみた。

「なあ、毎日すれ違うやつが突然いなくなったら、不気味じゃないか?」

「は?何それ」

「俺の帰り道で、いつも同じ時間にすれ違う男がいるんだ。でも、昨日はいなかったんだよ。」

「……いやいや、そんなの気にするか?単に別の道通ったとか、帰る時間がずれたとか、いくらでも理由あるだろ。」

「それはそうなんだけど……なんか違和感があるんだよ。」

「気にしすぎだろ。お前、幽霊とか信じるタイプ?」

「そういう話じゃねえよ……」

 軽くあしらわれたが、モヤモヤは晴れなかった。

 会社帰り、再び同じ道を歩いた。

 しかし── そいつはやはり、いなかった。


 帰宅後、リビングでぼんやりとテレビを見ていた。

 コーヒーを飲みながら、なんとなく考える。

(なんであの男がいないだけで、こんなに気持ち悪いんだ……?)

 その時だった。

 ── カタッ。

 微かな音がした。

 台所の方。

 風か? いや、窓は閉めている。

 誰かいるのか? そんなはずはない。俺は鍵をかけた。

 そっと立ち上がり、台所へ向かう。

 しかし、そこには何もなかった。

(気のせいか……)

 ふと、窓ガラスに映る自分の姿を見て、ハッとした。

 ── 俺の後ろに、誰か立っていた。


 俺は即座に振り返った。

 しかし、そこには誰もいなかった。

「……なんなんだよ」

 心臓がバクバクと鳴る。

 恐怖を振り払うように、もう一度窓を見た。

 ……やはり、何もない。

 深呼吸し、落ち着こうとする。

 しかし、そこで新たな違和感に気づいた。

 俺の足元に、濡れた靴跡がある。

 俺は確かに外に出ていない。それなのに、この靴跡は何だ?

 まるで誰かが、ここまで歩いてきたみたいに──

 その時、インターホンが鳴った。


 俺はビクッと身体を震わせる。

 夜の十時。こんな時間に訪ねてくる人間なんていない。

 恐る恐るモニターを覗く。

 そこには── あの男が立っていた。

 黒いコート、無表情。

「……お前……なんで……」

 インターホン越しに声をかける。しかし、男は何も言わない。

 ただ、じっとカメラを見つめている。

 手を震わせながら、もう一度訊ねる。

「お前……誰だ?」

 その瞬間、男の口が動いた。

 カメラ越しに、はっきりと俺に向かって──

「俺はずっと、ここにいる。」


 俺はパニックになり、玄関の鍵をかける。

 しかし、再びインターホンが鳴る。

 「……開けろよ」

 ガタガタと扉が揺れる。

 背中に嫌な汗が流れる。

 ── ドンッ!

 扉が叩かれる音がする。

 そして、その音と共に、玄関の鏡に映った俺の姿が──

 少しずつ薄くなっていく。

「……え?」

 鏡の中の俺が、ゆっくりと消えていく。

 代わりに、そこに現れたのは──

 あの男の顔だった。

「お前……誰なんだ……」

 俺が呟くと、そいつはニヤリと笑い、こう言った。

「道の先にいるのは、お前じゃない。」



【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

昨日出した話もそうですが、〝入れ替わり〟って僕の中で割と恐怖で。
そんな雰囲気が出てればと思います。

…本当、雰囲気だけ出ればいいや。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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