ショートショート:「うるせえと唱えてけ」
【前書き】
皆様、お疲れ様です。
カナモノです。
アナタは、叫びたいことありますか?
少しの間でも、誰かに寄り添えることを願います。
【うるせえと唱えてけ】
作:カナモノユウキ
《登場人物》
高瀬ノボル 建築家。
奥民トオル 雑誌編集長。
デカくてデカくて高い高い、天空にも突き出た塔が僕の街にある。
その塔には名前が無いけど、立て続けている奴の名前は有名だ。
〈高瀬ノボル〉…その建築技術は一級品で、一人で改築と増築を繰り返し、現在高さが750メートルの家を一人で立て続けている。
その高さはドバイの「ブルジュ・ハリファ」にも届こうとしていて、またニューヨークの「セントラルパークタワー」はとうに超えた高さを誇っている。世界一高く、一人で建築した居住地として世界一を誇る。
…だが僕は知っている、本人はそんなことを気にしてこんなことをしている訳ではないのだ。
「おじゃましまーす。」
「おう、勝手にくつろいでて。」
「…ここ何階?」
「分かんね、160階越えてから数えるの止めた。」
「毎回思うけど、本当スゲーよな。」
「そうか?」
「そうだよ、建築だぞ?」
「あぁ、オヤジの職場とかでガキの頃からよくそういうの勉強したんだよ。」
「オヤジさんも有名な建築家だもんな。」
「まぁ、多分もう俺の方が有名だろ。」
「そりゃもちろん、定期的にニュースになってるぞ。」
「……そうなんだ。」
もちろんコイツがこんなこと喜ばないって分かっている。
いくらニュースになったって、いくら有名になったって、ノボルの目的には関係ないんだから。
それは、高校時代から始まった。
「オヤジさん、また雑誌に載ってるな。」
「今度はラスベガスの有名ホテルの建築だってな。」
「だってなって、あんま興味無いのな。夢は同じ建築士なのに。」
「俺は…オヤジみたいな建築士目指してないから。」
「でもスゲーよな、俺なんてほら、平凡な家庭って感じだから…ノボルが羨ましいよ。」
それが、逆鱗に触れた最初で最後だった。
胸ぐらをつかんで彼は人を殺めそうな形相で僕に言い放った。
「羨むぐらいなら…動けよ。平凡なんて二度と使うな…反吐が出る。」
「な…何だよ急に。」
「軽口でも、そう言う事言う奴がムカつくんだよ…お前は、そういうヤツになるんじゃねーよ。」
「………分かった。」
胸ぐらをつかんだ手を解いた手は震えていて…、その時の僕は何でかなんて気づけなかった。
それからしばらくして、ノボルは建築が学べる学校へ転入して、卒業と同時に資格を手にした。
再会は、そこから更に5年後の夏になった。
「久しぶり、元気だった?」
「見りゃ分かんだろ…どうしたの急に。」
「いや、高校の時のこと謝りに来た。」
「…あ? 何かあったっけ?」
「フッ…そう言うと思ったよ。 …昼飯後にさ、〝俺なんて平凡な家庭だから〟って。羨ましいって、そう言ったらノボルキレたじゃん。」
「え?…ああ、あったなんなこと。」
「何か分かった様で分かんないんだけどさ。」
「また中途半端だな。」
「だけど、就活して…今雑誌記者しててさ。最近ずっとノボルのこと考えてて。」
「何だよそれ。キショいな。」
「ノボルがキレたのって、こういう中途半端さなんだろうなって。」
「ほう、それで?」
「だから、何もかも忘れるくらい本気で。明日死んでもいいように頑張ろうって。そうするためには…ノボルに謝らないとって思って。」
「…何かよく分かんないけど、気持は何となくわかった。…許す。つか雑誌記者なら、ちゃんと言語化しろよ。今後に響くぞ、その語彙力。」
「自分でもそう思うわ…でも、先ずは会えてうれしいよ…ノボル。」
「おう。……つか、それだけ?」
「いや、差し入れ持ってきた。お前すきだろ? 肉まん。」
「おおお、分かってるなトオル。」
「ここまで登るのに冷めちゃったかもだけどな。つか、ここ何回?」
「88階だったかな。エレベーター増やさないと。」
「増やせれるんだ、エレベーターって。」
「申請とか面倒だけどな、法令に引っ掛かって無ければいけるよ。」
「……何か目的があるんだよな? この増築って。」
「もちろん。」
「それって、今聞けたりする?」
「駄目に決まってんだろ…目的に達したら教えてやるよ。」
「それ、約束な。」
「いいよ、約束だ。」
ノボルは建築士に必要な資格や勉強を高校卒業後の三年で全て身に着け、二年前からこの増築を開始。
家は何度も姿形を変えて、その当時は巨塔と呼ばれる程強固な見た目を誇っていた。
それはまるで、ノボルの気持ちを反映したような姿だったと言える。
謝ったその日から、僕は定期的にノボルの家へ遊びに行った。
「最終的にだけど、何処まで行きたいんだよ。」
「ん?そんなん決まってるだろ、誰もいない高さだよ。」
「それって……え? どういうこと?」
「分かってないな。 高さを積み上げるって、そういうもんだろ?」
「そういうもんかな。」
「いいんだよそういうもんで。 んで、俺はその時に目的を果たせる!」
「それって、約束した?」
「そう、だからそれまでは頑張らないと…。」
ノボルはそう言って更に増築を進める、例え危険なデザインでもこなし。
どんどんと、一人とは思えないスピードと、職人技と言っていい程の技術で進み続けた。
そんなノボルを間近で見て、負けられないと…努力を重ねるしかなかった。
気付いたら、俺たちは三十路間近になっていた。
「これで、今何階建て?」
「多分だけど、160階ぐらいかな…機関室とか色々つけたからちょっと訳分らんくなった。」
「すげぇな、やっぱここまでデカくなると違うな。 …つかさ、金はどうなってんの?」
「色々だよ、株だのFXだの、あとクラファンも続けてる。」
「え!?クラファンとかしてるの?」
「ああ、部屋の所有の権利とか売ってな。」
「頭いいな…。」
「どっから出てると思ったんだよ、まさかオヤジとか言い出さねーよな?」
「まさか、そんなこと言うなんて一度も思わなかったわ。」
「…お前、本当に変わったな。 普通じゃねー感じして、いいわ。」
「なんだよそれ。」
「仕事、今どんな感じなんだよ。」
「仕事はもうめんどいの一言だよ、アポとって取材したり、資料写真だのなんだの指示とか。」
「今で編集長だっけ?頑張ってるじゃん。」
「もうさ、必死だったよ。なったからにはって目標立てて、死に物狂いで仕事して。てかさ、ここまで来てやっと分かったよ。高校の時のノボルってこの気持ちだったのかなって。必死に、目標見て勉強したり行動したりさ…そりゃ平凡って何だよって…なるかも。」
「そんなつもりでもなかったけどさ、まぁ嫌悪感は勝手に抱いてたかな。」
「じゃないと人の胸ぐら掴んだりしないだろ。」
「そうかもな…でも、今のお前は全然違ってて…悪くないんじゃね?」
「胸ぐら掴まない?」
「邪魔しなければ掴まねーよ。」
「邪魔なんてするわけないだろ、僕は…お前が目的を果たすまでここに来るだけだよ。」
「是非、そのままで居てくれ。」
「あ、でも目的が終わったら取材させてくれよ。ここまで有名になっても、お前の取材に成功した人間誰一人いないだろ?」
「成功ってか、全部断ってるしな…。」
「…邪魔だからだろ?」
「そう、邪魔だから。」
そこでお互いに、盛大に笑えるほど、相手のことは理解し始めてたんだと思う。
出会ったのは十代なのに、分かりあえるまでにこんなに掛かるなんて。
何だか、良い雰囲気まで来たなと思った時ほど、何かが起きるもので。
才能ある者に、災難が襲い来るのは…世の常なんだろうか。
それは三十路を越えてお互いぞろ目の三十三歳になった時だった。
「……ガン?」
「ああ、ステージはそんなにひどくないけどな。」
「酷くないって! なら、今そんなことしてる場合じゃないんじゃ…。」
「まぁな。 でも進めないと。 せっかくここまで来たんだから。」
「いや、だとしてもだな…。」
「ありがとう、でも…分かんだろ?」
「…あぁ、分かるよ。お前が止めないことも…止まるぐらいならここで死ぬことも。」
「だったら…責めて傍に居てくれよ。」
「……。」
頷くことぐらいしか出来ないと思ったが、それが最善ではない最善の選択だとも分かっていた。
俺に出来るのは、その支えぐらいだろう。
そこからは、毎日と言っていい程、ノボルの塔に通い詰めた。
「そう言えばさ、この親父さんとか…おばあちゃんは?」
「あぁ、どっかで暮らしてる。」
「その二人は…。」
「知らないよ、教えてないし、教えるつもりもない。」
「……だよな。」
「俺はここを立て続けることしか興味が無いし、それの邪魔になるのなら…家族もいらない。もう少しで、目標の高さのはずなんだ。…それまでは、言う気はないね。」
そんなの、分かり切っている。
何故、ノボルがこんなことを始めたのか…それは、〝自分であるため〟なんだと。
ここに通い続けてそれを痛いほど感じた。
ノボルの父は有名な建築士、その祖母も有名な内装デザイナーと建築一家と言っていい。
しかし…ノボルの母は病で他界、その母は画家だった。
恋に落ちたのはノボルの父のはずだったが、結婚は良好な関係を築くことは無かった。
ノボルを生んで直ぐに、母のガンが見つかり、それを知った父親は母親を病院に押し込み。
画家の命である筆を奪ってまで、治療に専念させた。
「母さんは、ずっと絵が描きたかったんだ。だけど…オヤジはそんな母さんが心配でさ。気持ちは…やっぱ分かんないけど、〝普通〟そうするんだとは思うよ。だけど…俺は許せない。絵を描きたかったんなら、絶対安静よりもやりたいことやらせた方がイイだろ。」
確かに〝普通〟なんだ、ノボルの父は〝普通の天才〟なんだ。
でも、その願いは虚しく、ノボルの小学校の晴れ姿を最後に見届けて…旅立った。
最後に、メモ帳に小さく…ノボルの似顔絵を描いて亡くなったそうだ。
「今でも母さんの似顔絵は宝もんだし、それが俺の生きる証しだ。」
〝やりたいことは、生きてるうちにやるのよ〟と最後に伝えて渡したらしい似顔絵は。
力の入っていない線で描かれているのに、その意志を強く感じる物だった。
今ノボルは、その母と同じ病気と闘いながら…塔を高くし続けている。
「おじゃましまーす。」
「おう、勝手にくつろいでて。」
「体調、大丈夫か?」
「ああ、ぼちぼち。」
やせ細った体で、製図を見ながら上の階を目指すその姿は…健康とは言い難かった。
「もうそろそろさ、頂上なんだ。」
「やっとか…、長かったな。」
「何年だったか…数えても居なかったからな。」
「そう言えば聞いたこと無かったんだけどさ、この増築始めた切っ掛けは何だったんだよ。」
「ん?…あぁ、それは覚えてる。…喧嘩だよ、オヤジとの。」
「ケンカ…まぁ仲は良さそうではなかったけど。」
「母さんの件でさ…、話し聞いてみたくて。そしたら…。」
「そしたら?」
「〝やりたいことよりも、仕事だ〟って…。オヤジにとって、母さんのやりたい仕事より。
亭主関白な主婦って仕事が大事だったんだろうな。」
「それが仕事ねぇ、…今なら歪んだ愛って言われそうな案件だな。」
「歪んでるってか…そう言うもんだったんだろ、オヤジの普通はさ。」
「家では普通の家庭を願ったってこと?」
「らしいよ、金は稼いでたけど、心のゆとりが無かったから…一度家庭を持ちたかったって。んで、母さんに告白して理想の家庭が手に入る予定だったのに。母さんは嫌がって。画家をどうにか続けさせて欲しいって何度もケンカして、結果母さんが折れた。」
「んで、その矢先ノボルが生まれるは病気が分かったわで…円滑って訳ではなかったのな。」
「ガキの頃だったからあんまり覚えてないけどさ、ギスギスはしてたよ。オヤジの思う癒しの〝普通の家庭〟って訳にはいかなかったわな…下手くそなんだよ仕事以外がさ。」
「んで? その母親のこと聞いてムカついてケンカしたと…。」
「その腹いせにさ、家めちゃくちゃにしてやろうと思ってさ。母さんの遺産相続俺だったし、金も有ったから取り合えずこの家を作り替えたるって思ったのが切っ掛け。」
「…それで増築って、やっぱどうかしてるよな。」
「分かる!三階建ての家に四階を作った時どうかしてるわって思ったわ。」
「…それ、オヤジさんは何も?」
「言わなかったな、もう勝手にしろって。俺も勝手にするからってさ。ばあちゃんにはたんまり仕送りして。んで、海外に移り住んで。ホテルを手掛けまくってるって訳だ。」
「……今でも忘れないよ、何で生んだんだって、何で家庭を持ったって…まぁ、もうどうでもいいけどさ。」
「勝手のスケールがデカいから文句の言いようもないわな…。」
「ああ…そうかもな。」
「大丈夫か?」
「ちょっと休む……悪い、肩かして。」
言われるがまま肩を貸す、症状の進行はきっと想像以上に速いのだと感じた。
〝何かしたい〟…そう思った時、ここの建物にクラファンしている連中を思い出した。
そして思い立ってからすぐに連絡先を調べて、増築の協力を資金以外で協力できないか声掛けしてみた。
反応は上々…だが、勝手が過ぎてしまって、ノボルと喧嘩になった。
「何勝手なことしてんだよ!ココは俺一人で建てるんだ!」
「その体でどう続けるって言うんだよ!」
「あと四階ぐらいどうってことないさ!」
「今までだって他人の手は幾度となく借りてただろう!何が違う!」
「勝手なことすんなって言ってんだよ!それも俺が決めることだ!」
「お前が勝手にするから!俺だって勝手だが助力したいって思ったんだじゃないか!」
「………ここに来て、お前が邪魔すんのか。」
「そんなつもりじゃない!」
「一緒だよ、ここから上は…俺一人でやり…たい…。」
激高した疲れが出たのか、ノボルはその場に倒れて…緊急搬送された。
ステージは3、リンパに移っていつステージ4になるかという瀬戸際だったらしい。
僕は…勝ってかもだったが、ノボルの製図を見て…必要最低限の施工を依頼した。
もちろん自分の財布から…こんな金額を、ノボルは捻出してたなと改めて驚いた。
そんなことを初めて半年…、様態が少し回復したノボルが現場に来た。
「トオル…何してんだよ。」
「何っで、続けてんだよ。増築。」
「頼んでねーよ!」
「ほら、あんまし吠えるとまた病院だぞ?」
「どうして…お前が…。」
「約束だよ、お前の目的を目の当たりにするまでは…続けてもらわないとな。だから、必要最低限の骨組み、緩衝材の用意だとかそう言う事しかしてねーよ。」
「………約束、してたな。」
「だろ、だから勝手で悪いがやらしてもらった。あと、こっからは俺もやる。」
「お前、仕事は?」
「長期取材と、有給のダブルパンチで何とかした。…さっさと済ますぞ。」
高さで言えば今は835メートル、世界一高い塔…もとい世界一高い実家が完成間近だった。
更に半年…ようやくここまで来た。
「よーーーーーーし、ここの壁紙貼れば…終わりか。」
「……疲れたぁ。」
「そりゃお前、疲れない訳ないだろ。20年は立ったからな。」
「俺も、良くここまで生きてるわな。」
「本当だわ。ガンって好きなことしてれば治るんじゃないか?」
「かもしんないな…。」
ステージ4、身動きもしんどいだろう。
こんな冗談を言い合える仲になったんだな、ノボルと…。
「よし、張り終えた…。」
「これで、完成か。」
「完成だ………はぁ、ありがとう…トオル。」
「だから、約束。果たすんだろ?」
「そうだった。」
そう言って、ノボルは窓を開けてベランダに出た。
強化ガラスの引き戸を開けて、頑丈そうなベランダ部分に出て突風吹きすさぶ中手を広げるノボル。
「はぁああああああ……見てみろよ。ここから見る下何て豆粒だな。」
「米粒よりも小さいかもな。」
「ハハハ、違いない。」
息を整えるノボル、この光景を見たかったのか…黙って外科医を見渡し続けている。
この光景の為に…、コレを見る為に…この塔を作り続けてたのか?
「ふーっ、はーっ。ふーっ、はーっ。ふーっ、はーっ。ふーっ、はーーーーー…っ。」
「…どうした?」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」
「…え?」
「ここに来れば誰も聞こえないだろ!」
「…た、確かに。」
「もううるせいんだよ世の中!!作りたいんだからいいだろうがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!何が天才の息子だ!何が増築の魔術師だ!何が病に負けないでだ!知るかぼけぇぇぇぇぇ!俺はなぁ!俺の為にやってんだ!やり遂げたんだ!この高さなら聞こえないだろうよ愚民ども!努力もしないで!勝手にイメージ付け加えんな!勝手に持ち上げんな!こっちはな!やりたいことだけをただひたすらにやり続けた結果がこの場所なんだ!誰の為でもねー!俺の為にやったんだ!迷惑かけたヤツ!手伝ってくれたヤツ!そしてトオル!本当にありがとうよおおおおおおおおお!こんな自分勝手なことつき合わせてよ!俺はなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!〝うるせえ〟って言いたかったんだ!この場所で!この誰もが届かない高いところでぇ!叫んでやるってぇ!だってよぉ!こんだけ高いとこは俺一人の場所!俺の自由になる高さじゃんか!だから!だからぁ!下界のクソどもに!暴言吐き放題だろ!?このバカ野郎どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!俺は天才でも何でもない!ただのノボルだぁ!俺はお前らのもんじゃない!ただの人間の高瀬ノボルなんだよバカ野郎どもがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
散々暴言を吐くノボルの姿が眩しくて、なんだかゲラゲラ笑いながら、いい大人なのにワンワン泣いた。
そしてしばらくして…真っ白になったノボルはその場に倒れて…旅立った。
葬儀は建築に携わった者たちと、クラファンの仲間…そして知人友人のみ。
身内は…誰一人、参加しなかった。
「目的って……あっけないもんだな、ノボル。」
僕は一人、ノボルの最後の姿を思い出し…涙が二三日止まらなかった。
やっと落ち着いた後日、僕は一人〝ノボルの塔〟に向かった。
僕向けに遺書を残しているらしい。
それを、あの場所で読みに来た…。
封筒の中には、弱弱しい字で殴り書きのように書いていた。
『この塔の権利を、全部奥民トオルにやる。それ以外は、認めん。』
「ノボル…はぁ…………ノボル。………ノボルゥゥゥ……うるせんだよマジ。」
貰ったからには、いや…譲り受けたからには………。
僕も言おうかな、ここで…あの時のノボルの様に。
「ふーっ、はーっ。ふーっ、はーっ。ふーっ、はーっ。ふーっ、はーーーーー…っ。」
眼下に広がる燦々たる夜景に目もくれず、僕は叫んだ。
「うるせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!」
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
言いたいことって、言いにくい世の中だからこそ。
そういう場所って、貴重ですよね。
では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
【おまけ】
横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。
《作品利用について》
・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。
ご使用の際はメール又はコメントなどでお知らせください。
※事前報告、お願いいたします。配信アプリなどで利用の際は【#カナモノさん】とタグをつけて頂きますようお願いいたします。
自作での発信とするのはおやめ下さい。
尚、一人称や日付の変更などは構いません。
内容変更の際はメールでのご相談お願いいたします。