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ショートショート:「羽交い絞めの2名」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は〝羽交い絞め〟というお題を貰い書いた作品です。
男って、女性に踊らされますよね。
楽しんで頂けると幸いです。


【羽交い絞めの2人】

作:カナモノユウキ


「おい、いつまでこうしている気だ。」
「さぁな、嫌なら抜け出せよ。」
「抜け出したら、お前も死ぬぞ?」
「んな訳ないだろ。」
「なら離してみろよ、この腕を。」
こんなやり取りを数十分は繰り返している。
不毛だ、不毛すぎる。
こんなことをしていたら、アイツに先を越されてしまうだろーが!
ことの発端は、この警官だ。


―――俺は所謂〝泥棒〟だ、但し普通のチャチな泥棒じゃない。
富と名声を振りかざす野蛮な富豪から、金や値打ち物を盗んでは貧しい奴らに恵む。
誇り高い〝義賊〟を名乗っている。
今日のターゲットは悪名高い大富豪【ドン・レストロ】。
しかもレストロを狙っているのは俺以外にもいる、あの女怪盗【黒猫】だ。
黒猫は私利私欲に金持ちから盗みを働き、自分の為にその盗品を売り捌いたりコレクションをする。
俺様、【金豹(きんひょう)】のライバルだ。アイツには負けられに。
早速俺は、ドーム球場程はありそうな敷地の外。
2メートルはある柵から侵入を図ろうとした時だった。
「そこで何している‼」
「ッチ…しまった!」
俺様が警戒していたにも拘らず、その警官はそこにいた。
「動くな!動くと撃つぞ。」
「おいおい、日本の警官が急に一般人に銃を向けるのか?」
「こんな所に一般人が歩いてる訳ないだろ、レストロの豪邸だぞ。それに、そんな重装備の一般人なんていない。」
「そんなの分からないだろ、紛れ込んだ人間だっていなくはないだろ?」
「この付近を長く担当しているが一般人は現れたことが無い。いいから喋らず、動くな。」
警官は銃を向けて近づいてく、何とかしないと。
「一旦、署に連行させてもらうぞ。」
手錠を掛けるタイミングが勝負、一瞬の隙を突いて俺が手錠を掛けてやる。
……そう思ったんだが、コイツ中々できるヤツだった。
揉み合いになり、背後を取られて、この俺が警官ごときに〝羽交い絞め〟に合うとは。
「暴れてももう無駄だぞ、大人しくしろ。」
「俺一人羽交い絞めにしても、こうしてる間に他の奴が来たらお前どーすんだよ!」
そう言った矢先、俺たちの目の前にアイツが現れたんだ……女怪盗【黒猫】だ。
「おい!そこの人!不審者を捕まえたんだ!手伝ってもらえないか!」
と叫ぶ警官と、動けない俺に余裕な感じで黒猫が近づいてきた。
「あの聞いていますか?お姉さん?」
「バカ‼こいつはあの女怪盗の黒猫だぞ!」
「え⁉あなたが⁉」
驚く警官と俺のちょうど真ん中、警官の胸と俺の背中の間に黒い箱を挟み入れてきた。
僅かに見えたその箱には見覚えがある。
「てめえ‼それ爆弾だろ‼」
「えぇ⁉爆弾⁉」
動揺する俺たちを見ながら、黒猫はその場から意気揚々と消えていった。
「えええぇ⁉コレマジで爆弾なの⁉」
「黒猫は爆弾使いでもある、今ここにある爆弾は触れている場所が離れた瞬間に爆発するアイツのオリジナル爆弾だ。」
「……とか言って、あの美女もお前とグルなんじゃないのか?」
「バカ言え‼グルだったら俺を助けるだろうが‼」
「お前が気を引いて、その隙に忍び込む計画かも知れんじゃないか!」
「だったらこの爆弾いらないだろ‼」


―――ということがあって、今俺たちは一触即発の危機に陥っている。
「おい、お前はこの爆弾の解除方法分かるのか?」
「分かったらどうだって言うんだよ。」
「解除したなら、今回は見逃してやる。」
「お前、もっと早くそれ思いつけよと言いたいとこだがな、こんな羽交い絞めされて背中に爆弾があってだな。手も回らない状況でどうやって解除すんだよ!どちらかの接地面が離れたら終わりなんだぞ⁉」
「チクショー‼なんで俺がこんな目に‼」
「それはこっちのセリフだよ‼」
「……こんなことなら、話に乗らなきゃよかった。」
「ん?今お前なんて言った?〝話〟って何のことだ。」
「あ‼ヤバ‼」
「さては、テメェ、黒猫と繋がってるな?」
「あ!いや、その……違うよ?」
「バレバレなんだよ‼お前最初から俺の足止めするために来やがったな⁉」
「いやいやいやいやいや!」
「もう駄目だって、誤魔化せねーから。」
「だってさー‼金豹の足止めしたらデートしてくれるって言うから‼」
「んなバカみたいな理由で引き受けて死にそうになってたら世話ねーな‼」
「うるさい!んなこと言うなら俺離れるからな!」
「離れたらお前も死ぬぞ。」
「お、お前もな。」
コイツがグルと分かったところで、現状は変わらない。
一か八か、離れてみてすぐさま箱を掴めば……イケるかもしれない。
その時だった、レストロ邸から警報が鳴り響き、柵を飛び越え黒猫が現れた。
「おい‼テメエ俺様の足止めにここまでする必要ねーだろ‼」
黒猫は笑顔で〝離れてみたら?〟と言い残し、その場を去っていった。
「あ‼チクショー!あのやろー!」
「なんだいきなり⁉」
「この腕離せ、もう大丈夫だ。つーか最初から大丈夫だったわ。」
「何言ってんだ、爆弾どうすんだ‼」
「いいから、離してみろよ。」
ゆっくりと羽交い絞めが解かれて、爆弾はごとりと地面に落ちたが、何も起きなかった。
「アイツ、俺まで騙しやがった。」
「え?これってニセモノ?」
「そうだよ、この数十分間はなーにも意味もない。ただ一人の女に騙されて、男二人がみじめに羽交い絞め会っただけってことだよ。」
「何だよそれー‼」
「〝男を羽交い絞めにするのは、いつも女〟ってことだよ。」
「……腑に落ちない。」
「まったくだ、お互い…ああいう女には気を付けような。」
警報とサイレンが瞬く深夜、野郎二人はたたずむことしか出来なかった。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

羽交い絞めってお題を貰ったときは正直困ったんですが、ちょっとコメディ色が出せて個人的には満足でしたが。
まだまだなので、この題材はまたチャレンジします。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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