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ショートショート:「思想の檻」



【まえがき】

皆様、お疲れ様です。
カナモノです。

今日も昨日とはちょっと違う、ディストピア。
少し違う檻。

少しの間でも、誰かに寄り添えることを願います。


【思想の檻】

作:カナモノユウキ


《登場人物》

・エリス・ナイトレイ(主人公)  ユートピアの管理社会に疑問を抱く少女。
保安官  思想違反者を取り締まる冷徹な管理者たち。
矯正施設の声  「正しい思考」を植え付ける洗脳プログラム。
ユートピアの住人たち  幸福に見えるが、個の意識を失った人々。


1. 管理された楽園

世界は静かだった。

空は青く、建物は白く整然と並び、人々は穏やかな微笑みを浮かべながら歩いていた。争いはなく、不満の声もない。

この都市、「ユートピア」は、完全に管理された社会だった。
住人は皆、毎朝定められたスピーチを聞き、日々の指針を受け取る。
そして、その指針に従うことこそが、この世界で幸福に生きる唯一の方法だった。

「今日も平和な一日になりますように。」

街頭スピーカーから流れる声に、皆が頷く。
それは、幸福の証明だった。

しかし、エリスは違った。

彼女は幼い頃から、この世界に違和感を抱いていた。
「本当に、これが幸せなの?」と。


2. 思想違反者

エリスの疑問は、いつしか恐怖に変わった。

ユートピアでは、「違反者」が定期的に報道される。
彼らは決まってこう言われるのだ——

「間違った考えを持ってしまった人々です。」

彼らは矯正施設に送られ、再教育を受ける。
そして数週間後、何事もなかったかのように街に戻ってくる。

「私は間違っていました。」
「この世界は、素晴らしい場所です。」

皆、同じ言葉を繰り返し、同じ笑顔を浮かべていた。
まるで、別人になったかのように——。

エリスは、彼らの目が〝空っぽ〟であることに気づいてしまった。


3. 禁じられた本

エリスは、ある日「禁書図書館」の存在を知った。

そこには、ユートピアが成立する前の記録が残されているという。
それが真実かどうかはわからなかったが、確かめる価値はあった。

彼女は、夜の闇に紛れて図書館へ向かった。

「……!」

そこにあったのは、彼女が見たことのない言葉の数々だった。

「自由」
「選択」
「革命」

そして、ある本の最後のページにはこう書かれていた。

「この世界は、真実を知る者を許さない。」


4. 追跡者

図書館を出た瞬間、エリスは気づいた。

誰かに、見られている——。

「エリス・ナイトレイ。」

背後から聞こえた声に、彼女は凍りついた。

「あなたは思想違反の疑いがあります。」

振り向くと、黒い制服を纏った男たちが立っていた。
彼らは「保安官」と呼ばれる、ユートピアの秩序を守る存在だった。

「私が、何を……?」

「あなたは禁書に触れましたね。」

彼女の全身が震えた。

「あなたには、再教育の機会が与えられます。」


5. 思想の檻

エリスは連行され、矯正施設へと送られた。

そこは真っ白な部屋だった。
何もなく、誰もいない空間。

スピーカーから、穏やかな声が流れる。

「あなたの考えは間違っています。」
「あなたの疑問は、不幸の原因です。」
「この世界は、完璧です。」

エリスは、ひたすらに言葉を浴びせられた。

眠ることも許されず、食事も最低限。
ただ、徹底的に「正しい思考」を植え付けられる。

数日が経ち、彼女の心はすり減っていった。

そして——

彼女は、自分の名前すら曖昧になり始めた。


6. 目覚め

どれくらいの時間が経ったのか、わからなかった。

ある朝、部屋の扉が開いた。

「おめでとうございます、エリス。」

保安官が微笑んでいた。

「あなたは、再教育を終えました。」

エリスは、ゆっくりと頷いた。

「はい。私は、間違っていました。」

彼女の声は、機械のように乾いていた。

「ユートピアは、素晴らしい場所です。」

彼女の目には、もう〝光〟がなかった——。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

アイデンティティを失うって、幸せなのか、不幸せなのか。
みんなで考えたら面白いのかも。

なんてm(__)m

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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