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短編小説:「駄菓子屋のナミネさん」

【前書き】

皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は〝お姉さん〟をイメージして書いてみました。
人に何かを伝える時、その中に〝想い〟が乗せられているのを、昔親戚のお姉さんに教わったことがあり、それを思い出し書いてみました。
楽しんでいただけると幸いです。


【駄菓子屋のナミネさん】

作:カナモノユウキ


「ナミネさん!聞いてよ!俺告白成功したよ!ナミネさんの言う通り伝えたらうまくいったよ!」
「そうだろ、あんたらガキの色濃いなんて、あたしには手に取るように分かるんだよ。」
あたしの駄菓子屋には、子供から大人までやって来る。
駄菓子を買うわけでもなく、ただただ人生相談や恋の悩みを打ち明けに来るやつが多い。
「ホント、そんなことより売り上げに貢献しなさいよ。」
ときは桜が散り始めた4月、あたしのところに、その子はオドオドと入ってきた。
「ナミネさん、今大丈夫?」
「見りゃわかんだろ、暇以外の何に見えるのよ。また悩みかい?」
「いや、実はね、少し困ったことがあって。」
この見るからに中学三年の内気な少年、幸太郎からの悩みは簡単に話すと〝家庭の事情〟ってやつだった。
「夢を追いかけたいのに、親が許さないと。何、そんなことで悩んでるのかい?」
「だって、父さんも母さんも俺にそれを期待してんだ、裏切れないよ。」
「あんた勘違いしてるんじゃない?〝期待〟は〝応えなきゃいけない〟んじゃないんだよ。」
「何言ってんの?俺は二人の息子なんだよ……親の期待に、応えないと。」
「馬鹿垂れ!いいかい、あんたらガキこそ自由に生きないとダメだろ。」
「そんなの、出来ないよ。……怖いもん。」
「恐怖や親の期待に応えることよりも、自分の気持ちに応える方法を学ばないでどうすんだい。」
「……どうしたらいいんだろ。」
「どうしたいかはあんたが決めないと、そこからが大人の第一歩だよ。」
親は進学校に進めたい、幸太郎は専門学校へ進みたい。
みんながぶち当たりそうな、複雑な問題。
幸太郎や他のみんなもそうだけど、各々の〝悩み〟をみんなあたしに伝えてくる。
あたしはあたしの考えを愛している、だからこそ、その〝愛〟を伝えることしか出来ない。
幸太郎に伝えたあたしの〝愛〟は、どう変化するのか。
あたしは見守ることしか出来ないけど、幸太郎が自由になるところを少し見てみたいな。

――――――そこからしばらくして、幸太郎は来なくなった。
セミが鳴き終えた9月頃、あたしは駄菓子を練るながら思いを馳せていた。
幸太郎はどう変化したのやら、この練り飴のように、あたしの愛が馴染んでおいしくなってくれてればいいけど。
「ナミネさん!ナミネさん!!」
「幸太郎。あんた、あれからご無沙汰だったじゃないの、あれからどうなったの?」
「それがさ……母さんは駄目だって言うんだけど、父さんが応援してくれて……何とかなりそう。」
「あんたの夢は叶いそうなの?」
「うん、少しだけど見えてきた。」
「良かったじゃないの、あんた自身の期待には、応えてやれそうなの?」
「応えたいから、頑張ってみる。」
幸太郎は良い笑顔で笑ってくれて、(嗚呼、この笑顔が見たいから、あたしは〝愛〟を伝えるんだ。)て思う。
「よかったね、あんたが自由になるとこを、あたしは見てみたいからね。」
「ねぇナミネさん、なんでそんなに皆に優しいの?」
「あんたは馬鹿だね、あたしは優しいんじゃ無いんだよ。」
「でもみんなの悩みを聞いてるし、相談にも答えるじゃん。」
「あたしはね、皆にあたしの〝愛〟を伝えたいの。みんながホッとする、この駄菓子のような〝愛〟をね。」
ここに来る悩みや、思いも、一つ一つがあたしへの〝愛〟だと感じている。
それを返さないのは、失礼だしね。
〝愛〟は〝愛〟で返さないと。
「幸太郎、頑張んな。自分の期待に、応えるためにね。」
幸太郎はその後、冬を超え、合格通知とともにあたしの所に来てくれた。
よかった、よかった。

あたしはこの駄菓子屋の女亭主、みんなは〝ナミネさん〟と呼ぶ。
売り上げはてんで上がらないこの駄菓子屋で、今日も人の〝愛〟に耳を傾ける。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

この〝お姉さん〟というイメージ、していたら、イメージは『天海祐希が駄菓子屋に居たら』でした。誰もが足を運ぶ駄菓子屋なんて、天海祐希が居るとしか考えられずに書いたらこうなりました。
そして前書きにも書いた、〝想い〟、今回は〝愛〟というフレーズを付けましたが、実際は大変で。
想いを込めたとしても、伝わらずに辛い思いをしてしまうとか、イライラしてしまうことも多いと思います。
なので実は想いを込め続けながらのコミュニケーションは、簡単なようですごく難しいのかもなと、書いていて思いました。

力量不足では当然あるのですが、
最後まで楽しんで頂けていたら本当に嬉しく思います。
皆様、ありがとうございます。

次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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