ショートショート:「お揃いにしようよ。」
【前書き】
皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回は男の子同士の恋愛…みたいな。
中々乙女と言うか。
少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。
【お揃いにしようよ。】
作:カナモノユウキ
《登場人物》
・春樹 二十歳
秋吉とは幼馴染、子供の頃から男らしい秋吉に憧れている。
・秋吉 二十歳
バスケが好きで大学でも続けている。
春樹のことを可愛い弟ぐらいに思っている。
「ねぇ、これ…お揃いにしようよ。」
「お!いいね!着やすそうだし…うん!一緒に買うか!」
何となく自分が出した提案だったけど、こんなに秋吉がノリノリで買うとは思わなかったな。
子供のころから一緒だったけど、今日はじめて男同士でお揃いのパーカーを買ってみた。
「なぁ!明日のバスケの練習でコレ着て行かないか?」
「え?…いいよ、秋吉がいいなら。」
「よし!そしたら必ず着て来いよ!約束な!」
今日は、そのまま解散した。帰宅したのに、何だか落ち着かない。
どうしたんだろう、なんかモヤモヤすると言うか、ドキドキすると言うか。
こんな事あんまりなかったのに…、寝れば収まるかな。
そう思っていたのに、翌日お揃いのパーカを見たときにこのモヤモヤの正体を理解してしまった。
「おぉ!春樹の方が似合ってんな!俺には何か可愛すぎないか?」
「そ、そんなこと無いよ。…似合ってる。」
「え!?マジ!?まぁ春樹が言うならそうなんだろな!サンキューな!」
「いや…本当のことだから。」
「なぁ、耳とか顔赤いけど風邪か?体調大丈夫か?」
「だ、大丈夫だよ。」
「本当か?どれ。」
その時、秋吉のおでこが近づいてきて咄嗟に離れてしまった。
「おわっ!逃げんなよ春樹!」
「きゅ、急におでこ近づけるからだろ?」
「え?ガキの頃とか普通にやってたじゃん。」
「それは子供だからだろ?」
「あ、照れてんのか?」
「違うよ!全然違う!」
「いやいや照れんなって!ペアルックで大学来てる時点で照れることなんてないんだから。」
「ちょ!そういうこと言うなよ!バカ!」
「本当可愛いなぁ~春樹は。」
勘弁してほしい、そんなこと言われたら…もう誤魔化しきれないよ。
多分、これは恋だ。…いや、多分じゃない。絶対そうだ。
参ったな…昔っからの仲なのに。
その日から、僕は大分様子がおかしくなったと思う。
「春樹、帰りカラオケいかね?」
「いや、今日レポート纏めたいから…。」
「春樹、明日遊び行ってもいい?」
「ごめん、昨日から親が来てるから…。」
「春樹、あのさ…。」
「本当ごめん、忙しいんだ…。」
お揃いのパーカーを着た日から三週間、避けに避けまくってしまっている。
いつもは誘いを断ることなんて絶対にしなかったのに。
どうしよう、絶対感じ悪いよな…。
「春樹!」
「ハ、ハイ!」
ゼミの終わり、不意打ちで現れた秋吉はいつもと全然雰囲気が違った。
「今日は逃がさねーからな!来週の日曜!買い物行くぞ!」
「いや、来週は…。」
「春樹の実家に電話して、お前の母ちゃんにこっち来ないのは確認したし!来週大学の予定全部無いはずだろ?」
「…何もないよ。」
「よーし!なら決まりな!よっしゃー!久々に春樹と買い物だぁ~!逃げんなよ!」
秋吉に逃げてたのがバレてたのも恥ずかしかったけど。
強引に買い物を予定に組み込まれて、めちゃくちゃ喜んでいる僕が居る…。
本格的に意識してしまう、日にちが近づくにつれてドキドキがヤバい。
もしかして、これはもう打ち明けないと収まらないんじゃないんだろうか?
ってことは、つまり…告白…ってことか?
うわぁ…どうしよう、考えただけで頭真っ白だ。
嬉しくなって、怖くなって、不安になって、また浮かれて。
グルグルしているうちに、あっという間に一週間が過ぎて、約束の日曜日になった。
「お!今日早いじゃん!」
「今日も…そのパーカー着てるんだ。」
「何か気に入ってさ、マジ買って良かったわ。」
「それは…良かった…。」
「本当ありがとな!」
「え、何が?」
「お揃いで買おうって言ってくれてさ。」
僕は今日まで、買って良かったと心から思えていないなんて…言えないよな。
「最初何処から行く?」
「そしたら、靴見に行こうよ。練習用のシューズ、擦り減ってたんでしょ?」
「あぁ!忘れてた!よし、行こ行こ!」
「自分で誘っておいてノープランだったのかよ。」
「だってよ、春樹がなんか様子変だから。無理やりにでも誘いたくてさ!」
「それは…ごめん。」
「何謝ってんだよ!ほら行くぞ!」
秋吉は意図的に〝気にしない〟が出来るタイプだ。
細かいことや、人の情緒を考えるのが極端に苦手だから。
おいおいって思うことも多いけどさ、そういうとこが…凄く好きなんだよって。
素直に言えたらな…。
「何ぼーっとしてんだよ!なぁ、どっちの靴の方がカッコいいかな?」
「え!?あぁ、赤い方がいいんじゃない?」
「春樹、ほんとに思ってるか?」
「なんで?」
「靴屋に入る前から、上の空臭いって言うか。最近なんか変だぞ?」
「そうかな…。」
「明らかにな。」
「…ごめん。」
「謝んなって…ほら俺ってそういうとこ下手くそだからさ、お前の地雷踏んでたらマジごめんな。」
「いや!秋吉が謝ることは無い!絶対無い!」
「そうかなぁ~、まぁどっちにしても今日は楽しく買い物しようぜ!な?」
「…あぁ、そうだね。」
「んじゃこっちの赤い奴買ってくるわ!」
優しい秋吉が、僕に使い慣れない気を使ってる。
正しく言えば、使わせているんだ…最悪だな僕って。
よし!ちょっとでも空気切り替えないと!
「ここの喫茶店のオムライスさ、絶対秋吉好きだと思うんだよな。」
「マジ!?俺オムライスには結構うるさいよ?」
「絶対満足するから、その自信だけはある!」
「っふ、良かった。いつもの春樹だわ。」
「え?」
「いや、今朝から変だったけど。今は普通になったなって。」
「そ、そっか…良かった。」
「楽しみだなぁ~オムライス!」
何でだろう、普通と思われてよかったよりも、嘘をついてしまったような罪悪感があるのは。
この罪悪感は、どっちに対して?秋吉?…僕?
ダメだ、余計なことを考えるとまた普通じゃなくなっちゃう。
「なぁ…オムライス、不味いのか?」
「何言ってるんだよ、美味しいに決まってるだろ。何でそんなこと聞くんだよ。」
「全然美味そうに食ってねーから。」
「え?…ごめん。」
「なぁ。何か最近マジで変だぞ、どうしたんだよ春樹。」
「…うるさい。」
「え?」
「僕は、変じゃない。…そんなこと、秋吉から言われたくなかった。」
「なんだよ、どういう意味だよ。」
僕はその問いかけに応えることなく、お店を一人後にした。
後ろで〝待てよ〟って聞こえたけど、無視しちゃったな。
あぁ、やっちゃった。
堂々巡りの末に、好きな人を無視するなんて。
…家に帰ると、きっと一生部屋から出られない気がする。
そう思うと更に怖くて、僕は過去に逃げ込んだ。
秋吉と行ったゲーセン、秋吉と行った本屋、秋吉と行った公園。
二人の思い出の場所に行けば行くほど、思い返せば返すほど苦しくなって。
逃げた先で分かったのは、この恋は本物だってことだけで。
このまま、もう秋吉と離れてしまったら…。
自分の理性と感情の答えが真っ向にぶつかった頃には、河川敷で夕日が見え始めていた。
「おい!春樹!」
「…え?」
「急にどっか行ってんじゃねーよ!」
「何で、ここに。」
「探したからに決まってるだろうが!」
「そりゃそうだろうけど…。」
「俺さ、意味分かんないことをほっとける程お前の事嫌いじゃないからさ。教えて欲しいんだよ。」
「教えるって…何を。」
「今のお前をだよ、何か俺に伝えたいこととかあんだろ。」
「…それは。」
「伝えないと分かんないだろうが。俺がバカなの、一番お前がよく分かってんだろ?」
伝えてしまえば、きっと…終わる。
秋吉との、全てが。…でも、伝えたい。
「なぁ、俺さ。バカだけどお前のことは良く分かんだよ。案外さ、幼馴染って捨てたもんじゃねーなって。春樹がここ最近俺のこと避けてたの、どっかで分かんないフリしていたんだけどさ。でも、ちゃんと分かってんだ。んで。今のお前見ていたら、このままは絶対に良くないんだよなって。分かったのに、無視したら駄目だなって。でもさ!俺から言われたら、きっとお前苦しくなるだろ?だって俺本当の意味で分かってないから。だから、お前の言葉を聞いたら…俺にも分かると思うんだよ。お前の気持ち。だからさ、聞かせてくれよ。お前の言葉で。ちゃんと受け止めるから。」
…理性が膝から崩れ落ちる音が聞こえて、ただ感情だけがそこに居た。
「僕は、秋吉に恋したんだ。…貴方が好きです。大好きです。」
「…よし。」
しばらく黙った秋吉を見て、何だか涙が溢れそうになって。
言った自覚が、込み上げてきた。
「春樹。」
「…うん。」
「俺も好きだ。」
「…え?」
「俺も!お前が大好きだ!」
「…どういう意味で?」
「分からん!」
「へ?」
「でもさ、コレから分かんだろうさ。だからさ、付き合おうぜ。俺たち。」
「…いいの?」
「言ったろ、教えて欲しいんだよ。これで間違ってないって。」
「…間違ってたら?」
「言わせるわけねーだろ!俺の愛を舐めんじゃねーよ!」
「秋吉。」
「ん?」
「ありがとう。」
そう言って、キスした秋吉は夕日で赤くなったのか、赤面したのかの区別がつかない程の顔だった。
「お前!急にするのは卑怯じゃね!?」
「格ゲーの時の秋吉よりは正統派だよ。」
「何だよそれ!」
「フフ。…今日はごめんね。急に出て行って。」
「ホント勘弁してくれよな!他の客にめっちゃ見られた気がしたわ!」
「ねぇ、まだレイトショー間に合うからさ。仕切り直さない?」
「あ!俺も言おうと思ってた!行こうぜ映画!」
「お詫びに映画代おごるよ。」
「当たり前だ!」
秋吉の言う通り、関係が急に変わったかは分からない。
だけど、間違ってないと言いたいんだ。
僕たちの気持ちが、お揃いになったこの今を。
今は、そう思うことにした。
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
…難しいね。
ただBLとかって言葉が僕は少し苦手で、こんな感じの話を前に書いたときも意識したのは「たまたま、好きにんった人がその人だった」が大事だよなと思っていて。
この二人みたいに、意識の変化だけで真実を認識するって実際あるなと思って。
少し過度な部分は有れど、こんな二人が居たら幸せだなと思いながら書いてました。
では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
【おまけ】
横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。
《作品利用について》
・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
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