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週一回は出したいシリーズ:「塩の月と一人の夜〈薄暮-はくぼ-〉」
【前書き】
皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
タイトルだけ先に書いていて、白紙だったので埋めてみた作品です。
少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。
【塩の月と一人の夜〈薄暮-はくぼ-〉】
作:カナモノユウキ
《登場人物》
・遥:29歳、星の彼女。
・星:32歳、遥の彼氏。
彼女は言った。
「月を見てると涙が出ることない?アレはね、月の塩分が目に沁みるから何だよ。」
バカげたことを言う、そう思うだろ?でも、彼女はいつも通り真っ直ぐな目で僕に伝えてきた。
「今、そんな訳ないって思ったんでしょ?顔に書かないでよ、毎回毎回。」
僕は顔に気持ちが直ぐ現れるらしい、彼女が読み取れる程に、分かりやすく。
「月はお塩で出来てる、これはみんなは知らない。私だけが知ってる秘密なんだ。」
何でそんなことを知っているのか、僕は聞いてみた。
「え?月はね、生き物の涙で出来てるんだよ。だから、アレは宇宙に浮かぶ大きな塩の塊なの。」
妙な話だった、星が形成できる程、生き物の涙は流されたのか?…あり得無くは…ないのか?
「海の塩分も、月と同じ成分で出来てるんだよ?知らなかったでしょ。」
知る余地もないし、そんなとんでもない理論、どんな人も解いたことは無いだろう。
「だからね、その塩の塊の影響で人は泣くの。」
そうなんだと言ってあげたいけど、全然納得いかない、納得いっても…言いづらいし。
「…だから、今私が泣いているのも。その影響だから、気にしないで。」
そうなんだとは言えないよ、君の涙がその影響だとしても…納得いかないよ。
「今日はさ、満月だよ。フルムーンなんだよ…だから、色んな人が今…泣いてるんだろうな。」
だとしたら、有難い。君が一人で泣かずに済んでいるんだから。
「でも、そういう時に限って…声を殺す泣き方しかしないんだろうね…人って生き物はさ。」
人間が泣くときは、大体声を出す方が珍しいと思うんだけどな。
「きっと、大きな声で泣いたら…スッキリするんだろうけどさ。…スッキリできないよね。」
それは、大きな声で泣きたいってこと?泣いても無駄だってこと?どっちにしても、よく分かんないな。
「もうちょっと、あとちょっとだけ…傍に居て欲しかったな。」
今傍に居るじゃないか…君の傍に、ずっと居るじゃないか。
「もう、姿もぼやけて来た。」
ああ、そうだった。今年もこの時期か…。始まったのか〝七夕病〟が。
「天の川何て隔てても居ないのに、何でこんなことが起きるんだろうね。」
彼女の言う通りだ、この病気はおかしい。
「年に一度、特定の男女に起きる奇病…掛かった人達は、名前通り…。」
年に一回、一日だけしかお互いを認識できない。それもジワジワとお互いの認知が薄れていく。
「織姫と彦星の様にはいかないね、お互い恋焦がれているのに…お互いを忘れるって…おかしいよ。」
同棲をして、結婚を間近に控えた僕たちに降り掛かった試練は重かった。
「せっかくさ、一緒に会社辞めて…好きなことして生きて行こうって決めたのに。」
会社では馴染めず、お互い歯がゆい社会人だった。それをお互いで変えて行こうと決めた矢先だった。
「急に星くんが居なくなって、でもお互いに失踪届出していて、同じ住所から出していて…。」
〝見えないけど、そこに居る。〟動きは自然と相手を避け、遥を認識できない不思議な現象。
「変だなって、でも不思議と待てて…一年後パッと戻って来た…。」
正確には、〝ずっと一緒に居た〟のに…、七夕でもない5月の中頃から半月だけ僕たちは再会できる。
「それが分ってから、更に5年…だけど、そろそろ限界なのかな。…星くんのこと、思い出せなくなるの。」
僕もそうだ、昨日抱いた温もりも、今日の口づけも、恐らく明日には〝感覚すら思い出せない。〟
「…いつになったら、コレって治るのかな。」
いつになったら、この病と呼んでいる現象は消えるのか。
「また来年まで…サヨナラか。」
嫌だな、来年はしっかり…彼女を愛せる自信が無い。
「来年は、星くんを愛せているのかな…。」
同じ部屋に居るのに。
「なんで、同じ時間を過ごせないの?…いやだな、本当にもう。」
今頃、塩の月が目に染みて来た。
「もう一人の夜は嫌なのに…、一人じゃないのに。」
もう彼女が見えないのは、塩の沁みた涙のせいだろうか。
「もう見えないのって、塩の月のせいかな…涙が止まらないよ…。」
お互いにまた、一人きり。
「一人の夜が、また来るんだな。」
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
近々ボイスドラマ化したい話を、先出です。
あ、また三編ぐらいになります。
では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
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