ショートショート:「もみじを」
【前書き】
皆様、お疲れ様です。
カナモノさんです。
今回はお題を頂いて書いたのですが…〝もみじ〟って、悩みますね。(笑)
少しの間でも、お楽しみ頂けていることを願います。
【もみじを】
作:カナモノユウキ
《登場人物》
・青葉
・松尾
秋も深まる頃、帰宅するとルームシェアの相手〝松尾〟が一人せっせと何かしていた。
リビングにはダンボールがふた箱、片方にはいっぱいの枯葉、そして松尾の子脇には一升瓶が置かれていた。
「ねぇ、何しているの?」
「ん?もみじを作っているんだよ。」
「…紅葉(もみじ)を作っている?」
「今、漢字のもみじを想像したろ。」
「ん?あぁ、紅の葉っぱで紅葉だろ?」
「俺が言っているのは、ひらがなで書くもみじさ。」
「それは何が違うんだよ。」
「あ、お前はそこからか。」
「何だよそこからって、僕は漢字で書く紅葉しか知らないし、みんな一緒だろ。」
「仕方ないなぁ、じゃあ教えてやるよ。」
コイツは何言っているんだろう、紅葉は作るものでもないし、秋の自然現象だ。
それに今テーブルに並んでいるのは、間違いなく紅に染まっている手のひら型の紅葉(もみじ)じゃないか。
「これはさっき公園で拾ってきた紅葉(もみじ)な、この枯葉に秋の太陽に晒した日本酒を垂らす。」
「え、もったいねぇ…この一升瓶の中身ちゃんと日本酒なのかよ、何か黄色くなってるじゃん。」
「良いんだよ、それにこの黄色は傷んだって訳じゃなくて太陽を吸ったんだよ。」
「太陽を吸った?」
「まぁ、それはいいから。そしたら…ホレ、このグラスに入っている日本酒を枯葉に垂らしてくれ。」
「え?…僕もやるの!?」
「俺一人じゃしんどいと思ってたんだよ、あ!垂らして少し乾いたらこっちの段ボールに入れてくれ。」
僕は松尾に言われるがまま、枯葉に日本酒を垂らし、ひたすら作業した。
不思議なことに、この日本酒からは…一日天日干しした布団の匂いがする。
「よし、一通り終わったなぁ~。」
「なぁ、僕は何をやらされているんだよ…。」
「だから、〝もみじ〟を作ってるんだって。」
「その〝もみじ〟を教えてくれって言っているんだよ。」
「そしたら、この垂らし終えた紅葉を一晩寝かせる。」
「話聞けよ!その紅葉っていったい何なんだよ!」
「落ち着けって、明日になれば分かるから~。」
ニヤニヤしながら言う松尾、こうなると意地でも言わないのを僕は知っている。
仕方ないから、一晩我慢した。
一夜明けて、お昼時。松尾は更にニヤニヤしながら、昨日の枯葉が入った段ボールを持ってきた。
「上出来~上出来~。」
「お、出来たの?」
「あとひと手間、これを粉々にする。」
「え?どうして?」
「撒くからに決まってるだろ。」
「はい?」
「いいから!ホレ、すり鉢。」
「は、はい…。」
「テキパキやれよ~。」
…僕は何をやらされているんだろうか。
昨日と同じく、松尾の指示に従い作業をこなす。
「良い感じ、良い感じ。…こんなもんかな。」
「これはもう…紅葉(もみじ)ですらないな、ただのクズだ。」
「んなことねーから!よし、これ持って今から山行くぞ。」
「え!?今から!?」
「おう!」
すり潰し粉々になった紅葉(もみじ)の粉をジップロックに詰めて、展望台のある公園まで行く。
車を走らせ一時間。なんやかんやで頂上に到着した頃には、空に夕焼けが滲んでいた。
「いやぁ~、素敵な紅葉(こうよう)ですなぁ~。」
「あの、松尾…そろそろ限界だ。僕は昨日から何を作らされていて、この粉々にした枯葉は一体何なんだ。」
「等々、教える時が来たか…。」
「もったいぶられ過ぎて、こっちはキレそうなんだがな。」
「これは、〝もみじ〟だって言ってんだろ?」
「…もういいや、帰る。松尾は歩いて帰れよ。」
「まてまて!今分かるから!」
松尾はそう言って、鞄から粉々の枯葉を取り出してそれを蒔き始めた。
「ホレ、お前もやってみ。」
何なのかも分からず、粉々の枯葉を蒔く。風に乗り、広い範囲に拡散する枯葉。
その姿は、さながらはなさかじいさんだ。
「ホラホラ、見えて来たぞ!」
「え?…おわ!…すごっ。」
枯葉が舞い散った先、山から見える景色が…一面キラキラと輝きだし。
何かが地上から空へと昇っていくのが見える。それはまるで、星が空へ帰る様な神秘的な光景で。
街が夕焼けよりも輝いて見える程だった。
「すげーだろ!これが〝もみじ〟だよ!」
「すげーな…すげーんだけどさ、あの空に登っているキラキラは何なんだよ。」
「アレは、〝一時の嫌な気持ち〟とか〝一時忘れたい思いで〟だよ。」
「…え?あれが?」
「この〝もみじ〟は、その年の嫌な思い出とか気持ちを年末に持ち越さないために一旦リセットする効果があんだよ。人にもそうだけど、動物とか場所とかにこびり付いたそういうもんが…まぁ成仏してんだなきっと。」
「何だそれ。この粉にそんな効果があるなんて…。」
「あ、信じてないだろ。ほれ、お前にも使ってやるよ。」
そう言って、松尾は僕の頭に粉を蒔いた。その瞬間、何とも言えない多幸感が押し寄せてきた。
そして直ぐ、体から何かキラキラした物体が登っていくのが見えた。
「ほら、お前さ…今年ずっと辛そうだったしさ。彼女からフラれるわ。会社クビになるわ。」
「…あぁ。」
「それにさ…飼ってた猫のモモちゃん、亡くなってから苦しそうだったし。」
「…松尾。僕の為にコレを?」
「親友がいつまでも元気ないとさ!なんか調子狂うし!せっかくルームシェアしてんのに、何も出来ないのもな!」
「松尾…。」
「ホラ!いつもリビングの掃除しない俺の代わりに掃除してくれてるしさ!俺の分の洗濯もしてくれるし!俺が飯当番なのに支度が中途半端で、そういうとき手伝ってくれるじゃん!」
「それは、僕にも関わることだしさ…。」
「あとさ!あとさ!」
「…もしかして。松尾、僕にありがとうって言おうとしてる?」
「え!?あ…うん。」
「プッ…フハハハハハ!」
「おいおい!こっちは真剣なのに!」
「いやいや!ごめんごめん!いやー、松尾って昔からそうだね。」
「え?何が?」
「何かさ、お礼言う前にプレゼント渡して来たり。ルームシェアも僕が迷ってる間に部屋決めたり。言葉よりも行動な感じ、昔っから変わってないなって。」
「それはお前がグズグズしてるからだろ!」
「いやいや、そうかもしれないけどさ…でもそういう松尾が居るから毎日楽しいんだよ。ありがとう、松尾。」
「お前が言うのかよ!…まぁ、いいけどさ。こちらこそ、ぁ…ありがとう、青葉。」
「うわぁ…。」
「な、何だよ!」
「聞きなれないなぁ…。」
「失礼だなぁ~お前はさ!」
松尾は、大事な時は必ず僕のことを〝青葉〟と呼んでくれる。
この不思議な光景よりも、実は松尾が僕のことを〝青葉〟と呼んだ時が一番嬉しいことだなと今実感した。
不器用で、言葉も足らないからこそ…なんだろうな。
「ところで、少しは気持ち…楽になったか?」
「あぁ、お陰様でスゲー楽になった。」
「そりゃ良かった!」
「これはさ、誰から教わったんだよ。」
「ん?俺のばあちゃん。」
「ばあちゃん、こんなこと知ってるなんて…一体何者なんだよ。」
「あぁ、ばあちゃん〝魔女〟だかんな。そういう不思議なこと何でも知ってんだよ。」
「…へ?魔女?松尾のばあちゃんが?」
「うん。お前も昔会ったことあるだろ?」
「あるけど…マジかよ、疑うに疑えないわ。」
「何でだよ。」
「だって、松尾のばあちゃん…見た目変わらないし、笑い方が魔女っぽいし。…これ見せられたらな。」
「あ~、何か失礼だからばあちゃんにいっとこ!」
「え!?何か怖い!やめて!」
「フフフフ、そしたら帰ったら飯とおつまみ頼むわ。」
「…何か今日は良くしてもらったし、仕方ない。」
「よしよし!今夜は呑むぞ~!」
「何かやけにワクワクしているな。」
「実はさ、この〝もみじ〟も紅茶にしてブランデーで割るとうんまいんだよ~。」
「え、これってそんな楽しみ方もあるの?」
「作ると、自分も皆も幸せにしてくれる。最高な秋の〝お楽しみ〟なんだよ。」
ニヤニヤしている親友を見て、更に多幸感が増してくる。
これは腕によりをかけた料理で返さないと、文句言われそうだなと思いながら。
輝く街へ降りていく、僕たちだった。
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
〝もみじ〟には過ぎるとかそういう季語の側面があると調べたとき。
ちょっとロマンチックにしたいなぁ~と妄想した結果、こんな感じになりました。実際このもみじ作れたら…多分めっちゃ使うな。
ちょっとでも忘れて幸せになりたいですよね。
嫌なこととか、忘れたいことから離れて。
次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
【おまけ】
横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。
《作品利用について》
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