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ショートショート:「檻の中の楽園」



【まえがき】

皆様、お疲れ様です。
カナモノです。

今日も昨日とはちょっと違う、ディストピア。

少しの間でも、誰かに寄り添えることを願います。


【檻の中の楽園】

作:カナモノユウキ


《登場人物》

レナ(主人公)廃都に住む少女。病気の兄を救うため、楽園都市へ潜入する。
レナの兄 病に苦しむレナの最愛の兄。 レナが楽園を目指す動機となる。
白衣の男(楽園都市の管理者)楽園の真実を知る管理者。冷静にシステムを維持する側の人間。
楽園都市の住民たち 豊かな暮らしを送るが、無表情で何かを失ったように見える。


1. 壁の向こうの世界

都市は、高くそびえる〝壁〟に囲まれていた。

壁の内側には、選ばれた者だけが住むことを許された「楽園都市」が広がる。そこでは、清潔な空気、潤沢な食料、最新の医療が保証され、住人は何不自由なく暮らしていた。

しかし、壁の外側には「廃都」と呼ばれる荒廃した世界が広がり、人々は貧困と病に苦しんでいた。

「この壁の向こうには、本当に楽園があるの?」

レナは、夜の闇に包まれた壁を見上げながらつぶやいた。

彼女は廃都の一員だった。毎日配給されるわずかな食糧を頼りに生き延びてきたが、彼女の兄は病に倒れ、もはや助かる見込みはなかった。

唯一の希望は、楽園都市へ行くこと。そこなら、兄を救えるかもしれない。

レナは決意し、壁を越えるための準備を始めた。


2. 招かれざる者

壁の警備は厳重だった。だが、都市の排水路を通れば、楽園へ忍び込める可能性があった。

レナは夜中にこっそりと排水路へ潜り込んだ。暗闇の中を進むこと数時間、やがて彼女は巨大な排水口の先に、眩しいほどに輝く都市の光を見た。

「これが……楽園……。」

初めて見る都市の光。整然と並ぶ高層ビル。澄み渡った空気。

しかし、その美しさに浸る間もなく、レナは何者かに背後から捕らえられた。

「侵入者を確保した。」

無機質な声とともに、レナの意識は闇に落ちた。


3. 理想郷の正体

目を覚ますと、そこは白く輝く部屋の中だった。

「目が覚めたようだね。」

そこにいたのは、白衣を纏った男だった。

「あなたは……?」

「私は、この都市を管理する者。」

男は穏やかに微笑んだ。

「あなたは壁の外から来たのですね。」

レナは警戒しながらも頷いた。

「お願いです。ここで兄を治す薬をもらえませんか?」

男は少しだけ考えた後、静かに言った。

「あなたはこの都市の真実を知る覚悟がありますか?」

「……?」

「楽園都市は、誰もが幸せに生きる場所。しかし、その幸福には〝代償〟があるのです。」

レナの胸に不安が広がった。


4. 生命のシステム

男は静かに語った。

楽園都市の人々が豊かな生活を送るために必要なもの。それは、「外の人間の生命エネルギー」だった。

都市の住人は、定期的に〝新しい血〟を必要とする。
廃都の住人の中から選ばれた者たちは、都市へと連れてこられ、彼らの生命力を提供することで、この楽園は成り立っていた。

「あなたも、ここに来た以上、この都市に〝貢献〟してもらいます。」

レナは凍りついた。

「そんな……。そんなの……楽園なんかじゃない!」

「楽園とは、誰かの犠牲の上に成り立つものなのです。」


5. 逃亡

レナは激しく抵抗し、男を突き飛ばして部屋を飛び出した。

都市は美しく、静かだった。だが、そこにいる人々は、どこか無表情で、まるで〝何かを失った〟かのようだった。

彼らは知っているのか?
自分たちの幸福が、誰かの犠牲の上にあることを——。

レナは再び排水路へと向かった。

「兄を救うためにここへ来たのに、こんな場所にいたら……何もかもが間違ってしまう……!」

警報が鳴り響く中、レナは必死に出口を目指した。

そして、彼女は……


6. 廃都の朝

レナは、壁の外に戻ることができた。

兄の元へと急ぐと、彼はまだ息があった。

「……レナ?」

「大丈夫。もう、何も奪わせない……!」

レナは固く誓った。

この世界のどこにも、本当の楽園など存在しない。
ならば、自分の手で、大切な人を守るしかないのだ——。

壁の向こうに広がる〝偽りの楽園〟を睨みながら、レナは新たな決意を胸に抱いた。


【あとがき】

最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。

現代社会でも、同じようなことってあると思うんですよね。
それを僕なりに表現したつもりです。

では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。

カナモノユウキ


【おまけ】

横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。


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