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ショートショート:「目の中の目」
【まえがき】
皆様、お疲れ様です。
カナモノです。
昨日とはちょっと違う、ディストピア感。
少しの間でも、誰かに寄り添えることを願います。
【目の中の目】
作:カナモノユウキ
《登場人物》
・俺(ハヤセ):32歳。データ管理局の職員。
・サエキ:30歳。監視システム「オムニアイ」のメンテナンス担当。
・管理官:40代。オムニアイの監視責任者。
《データ管理局・監視室》
「監視されている」
そんな意識は、もう誰の中にもない。
なぜなら、監視は"意識しなくても存在するもの"になったからだ。
天井のカメラ、街角のセンサー、スマートレンズ。
それらは全て「オムニアイ」に繋がっている。
オムニアイ――
それは、"人間の全ての視界と思考"を記録するシステム。
俺は、その管理をする仕事をしている。
サエキ「なあハヤセ、お前さ……最近、"考えちゃいけないこと"を考えたことあるか?」
サエキが、俺のデスクの向かいで小声で言った。
俺「……なんだよ、それ。」
サエキ「例えばさ。"監視を逃れる方法"とか、"オムニアイを欺く手段"とか、そんなことを考えたことがあるかって話。」
俺は、ゾッとした。
そんなことを"考える"だけで、アウトだ。
オムニアイは、俺たちの視界だけでなく"脳の思考パターン"まで解析する。
思っただけで、それは"記録"される。
つまり――
"監視を逃れる方法"を考えた瞬間、"監視対象"になる。
《街・監視ドーム内》
俺は、サエキの言葉が頭から離れなくなっていた。
"考えちゃいけないこと"を、考えてしまう。
(……オムニアイを、止めるには?)
その瞬間だった。
『警告。ハヤセID-76432。
不審な思考パターンを検知しました。
再発した場合、監視対象に指定されます。』
耳元に、オムニアイの無機質な声が響いた。
俺は、息が詰まるのを感じた。
(思っただけで、アウトなのか……?)
《データ管理局・管理官室》
管理官「ハヤセ君。君の"不審な思考パターン"について話を聞こうか。」
俺は、冷たい汗が流れるのを感じた。
俺「……何か問題でも?」
管理官「君は今日、『オムニアイを止めるには?』と考えたね。」
心臓が跳ねる。
俺「……考えただけです。」
管理官「考えた時点で、それは"行動の前兆"とみなされる。」
俺「そんな……思考まで管理されるんですか?」
管理官「当然だ。オムニアイは、犯罪の"発生前"に阻止するためのものだからね。」
《サエキの自宅・深夜》
サエキは、俺が訪ねるとすぐにドアを閉めた。
サエキ「やっぱり、お前も引っかかったか。」
俺「お前……もしかして、わざと俺に言わせたのか?」
サエキは、黙ってコーヒーを淹れながら言った。
サエキ「俺たちは、もう"自由に考えること"すら許されてないんだよ。」
俺「……」
サエキ「なあハヤセ。"お前自身の考え"は、どこにある?」
俺は、言葉を失った。
《オムニアイ・データ保管庫》
俺たちの"考え"は、すべてデータとして蓄積される。
言葉だけではない。
"思考そのもの"が、"ログ"として残される。
つまり――
"自由意志"は、記録され、管理され、必要ならば削除される。
サエキ「オムニアイは、すべてを見ている。"目の中の目"さ。」
俺「……俺たちは、まだ"俺たち"なのか?」
サエキは、少し寂しそうに笑った。
サエキ「それを考えた時点で、お前は"監視対象"だよ。」
俺は、背筋が凍るのを感じた。
《管理官室・再尋問》
管理官「ハヤセ君。"考える"のは、もうやめることだ。」
俺は、拳を握った。
俺「それが、"自由"か?」
管理官「"自由"は、定義次第だ。」
俺は、言葉を失った。
("考えてはいけないこと"を、考えるな。)
(それが、この社会のルールだ。)
(なら、"俺の意志"は、どこにある?)
(もう、俺の"考え"は、俺のものではないのか……?)
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
何か無償にアイデンティティって言葉を連想する話が書きたくなって。こんな世界で保てませんよね、アイデンティティ。
…本当、怖い話だ。
では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
【おまけ】
横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。
《作品利用について》
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そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
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