
ショートショート:「ゼロ区の楽園」
【まえがき】
皆様、お疲れ様です。
カナモノです。
昨日とはちょっと違う、ディストピア。
少しの間でも、誰かに寄り添えることを願います。
【ゼロ区の楽園】
作:カナモノユウキ
《登場人物》
・俺(アキラ):36歳。突然「排除対象」に選ばれた男。
・タキザワ:50歳。ゼロ区の管理官。
・ユウマ:25歳。「排除対象」に選ばれた青年。
《ゼロ区・管理局前》
人が多すぎるのだ。
この都市では、"生産性のない者"は定期的に排除される。
それが「ゼロ区のルール」だった。
俺は、そんなルールを気にしたこともなかった。
"選ばれるのは、社会の役に立たない人間"だと思っていたから。
だが──今日、俺は"排除対象"に選ばれた。
タキザワ「アキラ君、悪いが"排除対象"に決まった。」
管理官のタキザワは、いつもと変わらない調子でそう言った。
俺「……冗談だろ?」
タキザワ「残念ながら、決定事項だ。」
俺「俺はちゃんと働いてる!税金も払ってる!」
タキザワ「それだけでは不十分なんだよ。」
俺「何が"不十分"だって?」
タキザワはため息をつき、淡々と説明を始めた。
タキザワ「ゼロ区は"最適な社会"を目指している。"最も生産性の低い者"が定期的に排除されることで、都市の効率は維持される。」
俺「俺より無駄な奴はいくらでもいるだろ!」
タキザワ「それは君の主観だ。我々は、"統計的に最も価値の低い者"を選ぶ。」
俺は絶句した。
《ゼロ区・排除対象者待機所》
俺と同じように"選ばれた"者が、十数人ほど座っていた。
その中に、一人の若者がいた。
ユウマ「アンタも"不要"になったのか?」
俺「……らしいな。」
ユウマ「納得してるのか?」
俺「できるわけないだろ。」
ユウマ「俺はもう納得したよ。」
俺「どういうことだ?」
ユウマは静かに笑った。
ユウマ「だって、この都市では"無駄な人間"に価値はないんだろ?」
俺は何も言えなかった。
《ゼロ区・逃亡ルート》
"排除"が何を意味するのか、誰も教えてくれなかった。
処刑か、追放か、それとも──
だが、一つだけ選択肢があった。
"逃げる"ことだ。
俺とユウマは、施設の隙を突いて外へ走った。
監視ドローンが動き出し、警報が鳴る。
ユウマ「アンタ、どこへ行くつもりだ?」
俺「ゼロ区の外に逃げる!」
ユウマ「外なんて、どこにもないぞ!」
俺「……?」
ユウマは、振り向きもせずに言った。
ユウマ「この都市は"世界"そのものだ。外なんて、ないんだよ。」
俺の足が止まる。
(外が……ない?)
《ゼロ区・管理局》
捕まるのに、時間はかからなかった。
タキザワが、呆れたように言った。
タキザワ「まったく……逃げられると思ったのか?」
俺「ゼロ区の"外"は、どこにある?」
タキザワ「どこにもないさ。君たちは"最適化"されるだけだ。」
俺「……"最適化"って、何をするんだ?」
タキザワ「不要な人間のデータを削除する。それだけのことだよ。」
俺「"データ"?」
タキザワは笑った。
タキザワ「君たちは、もう"人間"じゃないんだよ。」
俺の頭が、真っ白になった。
《ゼロ区・排除施設》
俺は、施設の奥に連れて行かれた。
壁には、無数の名前が刻まれていた。
"排除された者たちの記録"。
そこに、"俺の名前"も追加されるのだろう。
ユウマ「これが"ゼロ区の楽園"ってやつさ。」
俺「……楽園?」
ユウマは皮肉っぽく笑った。
ユウマ「"不要な人間がいない社会"が、楽園なんだとさ。」
俺は、歯を食いしばった。
《最終処分》
オペレーターが、無機質な声で言った。
『排除プロセスを開始します。』
俺の意識が、消えていく──。
(ゼロ区の楽園。そこに"俺"の痕跡は、もう残らない。)
【あとがき】
最後まで読んでくださった方々、
誠にありがとうございます。
結構自分の中ではかなり怖い話で。
生産性の無いものは排除されるって・・・かなりディストピアとしては怖い部類だと。
この恐怖、伝わるといいな。
では次の作品も楽しんで頂けることを、祈ります。
お疲れ様でした。
カナモノユウキ
【おまけ】
横書きが正直苦手な方、僕もです。
宜しければ縦書きのデータご用意したので、そちらもどうぞ。
《作品利用について》
・もしもこちらの作品を読んで「朗読したい」「使いたい」
そう思っていただける方が居ましたら喜んで「どうぞ」と言います。
ただ〝お願いごと〟が3つほどございます。
ご使用の際はメール又はコメントなどでお知らせください。
※事前報告、お願いいたします。配信アプリなどで利用の際は【#カナモノさん】とタグをつけて頂きますようお願いいたします。
自作での発信とするのはおやめ下さい。
尚、一人称や日付の変更などは構いません。
内容変更の際はメールでのご相談お願いいたします。