小説:シネマ・コンプレックス06(終)
エピローグ 女神の祝福
とりあえず、神様が人間に恋をしたお話はここで終わりだ。
彼の運命がどうなったか、私は解らない。私には時の神のように、時間を早回しする能力はないんだ。実際に流れる時間を眺めていくにはたいそう時間がかかる。運命の数だけ並行した世界があることになるから、数も途方も無いしね。
新しく時の神になった奴に聞いてもいいが…新人は新人でまだ職務に精一杯だろうし。
色々と考えた結果、私は自身の心の安寧も図って、さっぱりと忘れることにした。冷たいって?いいじゃないか。元々私たちは神だ。一人の人間だけに構っている暇なんて無い。それに、彼の目論見が上手くいったとしても、それを共に喜べる友人は最早居ない。
もし上手くいかなかったとしたら………それはあまりにも切な過ぎるから、考えないようにしている。
ただ、少なくとも私は彼が上手くいくことを祈っているし、それに……ええと、こっからの話は、『特別待遇が過ぎる!』と怒る奴も居るから秘密だぞ?
『今までありがとう』と、アイツは言ったが、アイツの部屋にはちゃっかりと私宛のメモが残されていてね。しばらくたって感傷も薄らいだ頃に見てびっくりしたよ。これは最後の大仕事だ、ってね。こんな仕事を残していくなんて、短い間に奴も随分厚かましくなった。
あまり付き合いは無かったが、例の魂の行き先を決める神のところへ行った。そこで相当な無理を言って、一際まばゆく、まっすぐな魂の生まれ先を、『彼女』の生まれる年の、『彼女』の家の隣にした。魂の行き先を決める神からは、過去に割り込むことになるので大層文句を言われたが、今タイムパラドックスとやらを取り締まる神は不在だということを散々言い聞かせて、なんとかやってもらった。
そして、そのまっすぐな魂の運命を、めっちゃくちゃに分岐させてやった。その魂はやたらと運命の分岐点が多くて、かなり骨が折れたけど、なんとか済んだ。
こういうのを、女神の祝福っていうんじゃないか?
だからきっと………。
まぁ、いいか。
この話に続きがあるとしたら、それは『不器用ながらも誠実な男が』、『隣に住む幼馴染にずっと恋をしている』そんな、どこにでもありふれた、辛くも苦くも切なくも無い、平凡な話であることを祈ってるよ。
おわり。
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