9月8日は「新聞折込求人広告の日」
母がチラシで作った箱は、家の中にあちこちに存在し、死ぬほどにある。ピーナッツを食べるときに殻を入れたり、みかんを剥いたときに皮を入れたりするのに使うというのが我が家のルールとなっていた。
昼くらいに目が覚めたので、自分の部屋から1階のリビングに下りた。ゆるいパジャマ代わりのスウェットのズボンがずり落ちてきた。
「なんか、お腹空いたなー」と言うと、韓国ドラマを熱心に観ていた母は「無職に食わせるものはない」と、僕が無職になってから何百回と繰り返してきたやりとりを行った。もはやルーティンと言ってもいい。仕方ないのでテーブルの上にあった煎餅の袋から一枚拝借した。
同じくテーブルの上には、母の作った箱が置かれていた。中身は飴ちゃんの袋やら、糸くずやらが入っていてチラシで作られたその箱はしっかりと第二の人生を歩んでした。
母が作るチラシの箱の在庫が切れたということが今までに一度もない。これはまことに不思議なことで、母が箱を作っているところも見たことがない。隠れて作っているのか、それとも家族が夜寝静まった後に作っているのか、それとも海外に発注して低予算で作ってもらっているのかは不明だが、とにかく在庫が豊富な箱である。しかも折りたたみ式だから使わないときは折りたたんでしまっておける。
ボリボリと煎餅を食べながら、母が熱心に観ている韓国ドラマを一緒になって観る。どうやらこの二人、付き合っていたけれども兄妹だったことが発覚した大事な場面らしく、お互いが真剣に雨の中で何かを話していた。もちろん韓国語なので何を言っているのか分からない。字幕もしっかり読む気にもならない。毎日何時間も韓国ドラマを観ている母はそのうち韓国語を話せるようになるのではないかと、薄っすら期待もしている。
一緒に韓国に行ったときは通訳になってもらおう。アニョハセヨ。
無職だが次の煎餅に手を伸ばそうとしたとき、机の上の箱に書かれた言葉が目についた。
『誰でも簡単! 赤巻紙、青巻紙、黄巻……募集中!』
そこでちょうど折れていて、先を読むことができなかった。
赤巻紙、青巻紙って……。早口言葉のやつじゃん。子供の頃に友達同士で言い合ったのを思い出す。
いったいどんな仕事なのだろう。そもそも仕事の募集なのか? 簡単と書いてあるけど、まぁ紙を巻く仕事なんだろう。広い工場で大きな赤巻紙や青巻紙や黄巻紙がゆっくりと巻かれている姿を想像して、そんな仕事がこの世にあるんだなーと煎餅を食べながら思う無職である。
9月8日は「新聞折込求人広告の日」