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11月8日は「いい歯の日」

枕元にはスマホ。それから白い異様な白さの何かがあった。それは石ではないなと寝ぼけていてもなぜか分かった。そこからは生命的な何かを感じたからかもしれない。でも生き物ではなさそうだ。だってさっきから見つめているのに、まったく動かないからだ。どちらかというと貝のようにも見えた。なぜ枕元に貝が。寝ている間に流されたか。まさかな。夜寝る時にはたぶんなかったと思う。というか枕元に何が置かれているかそんなに気にしたことはない。

朝日を浴びて異常に輝きを増したその白は、日常的な白さの数倍だ。芸能人の歯の白さの2倍、一流芸能人の歯の白さの3倍ほどで、わたしは安心の白よ。触っても眺めても大丈夫と言われているようで、手で掴んでみた。予想通りの重さで少し安心し、白さ故かもう少し冷たいかと思ったが、そこまでではなかった。色々な角度から観察すると一つの結論に達した。これは「歯」ではないか。しかもいわゆる子どもの歯「乳歯」ではないか。
なぜ、大人の自分の枕元に乳歯があるのか、分からない。もう何十年も前に自分の乳歯を実家の屋根の上に投げた記憶が蘇り、口の中が血の鉄の味がした。これはあの時の自分が投げた乳歯なのか。長い年月を経て実家の屋根から、この実家から離れたアパートの枕元に着地したのか。
空間や時空が歪んで、一時的に不思議なことが起こる。

なんとなくまだ口の中が血の鉄の味がするようで、うがいをしに洗面所向かった。
鏡で口の中を見ると、大人の歯が並んでいる冴えない大人が一人いた。

11月8日は「いい歯の日」

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