7月2日は「タコの日」
タコが苦手だが、家計のお財布を握っている人が好物ということは、食卓に上げなくてはいけない。
タコの目が苦手だ。何なんだあの目は。真冬の外体育の時間にしっかりと着込んだ体育教師を見るような生徒たちの目みたいな、結婚式で友達がいないから仕方なくお金を払って友達役の業者を頼んだら、その友達役の人が新郎の名前を間違えて、業者だとばれた時の親族の目みたいな。
まったくタコの目は、世の中の色々な目に似ていて困る。
だから、あたしは切り刻まれているタコさんを選んだ。タコさんウインナーは好きなんだけどな。
「ただいまー」
真鍮のドアノブに手をかけた。
何回入っても異常な空間だ。なにこれ? 現代アートなの? 村上隆呼んでくる? といつも思う。
部屋の中央の2つの椅子。それ以外はすべて棚が壁に並び、なんだかよくわからん家みたいな模型が置いてある。それもたくさん。
唯一窓から見える空、そして外の景色が現実的なものだった。あ、あとあたしが今もっているタコの切り刻まれたやつも超現実的なものか。
部屋の奥に扉があり、その扉から中に入る。
そこは狭い生活空間と、お兄ちゃんの仕事部屋。
「はい、タコの切り刻まれた遺体」といいながら、ビニール袋に入ったタコを渡す。
「ミナミちゃんね、遺体っていわれると食べずらいんですけど」
「はー知らないし、牛肉も豚肉もみんな遺体じゃん。遺体焼いて食ってんじゃん」
「まぁそうだけどさ。あれ、お店で切ったの買ってきたの? ぼく切るから大きいやつ買ってきてって言ったのに」
そこから、あたしはいかにタコが嫌いかをお兄ちゃんに説明そこは割愛。
「なんだーさばくの楽しみのしてたのに」
なんたら建築士として働くお兄ちゃんは、仕事で建たない建物の模型ばかりつくっているから手先が器用だ。
魚もよくさばくし、お兄ちゃんの好物のタコも時々さばいているみたい。
「ミナミちゃん、タコ食べる?」パックを開けて、タコを勧めるお兄ちゃん。
「ねぇ、ミナミちゃんって呼ぶのやめて。嫌いなの名前」
「え、じゃなんて呼ぶのよ。苗字で呼ぶのも変だし」
「妹でいいんじゃない?」
「いやおかしいでしょ……」
あたしの名前は「キタ ミナミ」そう北南だ。どっち行くんだよと友達にしょっちゅう言われる。そして兄の仕事は「空想建築士」
7月2日は「タコの日」