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4月16日は「エスプレッソの日」
「同じので」と言って失敗する。このパターンは、まいちゃんと無国籍料理店に行った時のパクチーの一件と酷似している。
あたしの前にはこれは子供用のカップですか? と思うような幼稚園の子らが、おひるごはんと一緒にオレンジジュースを飲むカップのサイズのように見えるおとぎの国のカップが置かれた。何かの間違いではと店員さんを盗み見るが、ベッキー似の美人さんの店員さんは、この店のバイト代以上の笑顔はせず、ギリギリ時給に見合った精いっぱいの笑顔で「ごゆっくり」と言い去って行った。
そのカップの中にあるものは幼稚園の子らが飲むにはあまりにも黒が黒くて、ずっと見ていると吸い込まれそうなんてかわいい子が言えばいい感じの小説が始まりそうな雰囲気の黒だった。
「エスプレッソだよ。飲むのはじめて?」
えすぷれっそだよ。のむのははじめて? と日本語で言われた言葉を日本語として理解できているのか? これがポカリスエットだよ。飲むのははじめて? だったり、チューペットだよ。吸うのははじめて? だとあたしの守備範囲だが、えすぷれっそというこの小さくて黒いやつはあたしの想定外です。
「は、はじめて。うん、はじめて」
「味に深みがあって、香りがいいよ」
この飲もうと思えば一口でいけそうな液体に深み、そして香りがよいとな。彼はその大きな手を器用に使い、嘘みたいな小さなカップを持ってゆっくりと口に近づけ、少しだけすすった。あれ? さっきよりカップ小さくなった?
その一連の流れはおままごとのようだ。あー納得。この喫茶店に入った時から壮大な大人のおままごとは始まっていたようだ。だからカップはこんなに小さいんだな。なんならこの黒い水も泥水なんだな。そうすると色々なことが納得がいく。そのくらい、えすぷれっそはあたしのなかでは嘘くさかった。ぜんぶ冗談でしょと思い、あたしもやっとおままごとに参加するため、手始めにえすぷれっそに手をつける。
大きいマグカップも持ちにくいけど、小さいのも持ちずらいんだね。と思いながらカップを持ち、一口飲み、にげーそして笑顔で彼に、
「あじにふかみがあってかおりがいいね」
と、おままごとの一員として言った。
4月16日は「エスプレッソの日」