10月9日は「世界渡り鳥デー」
ここで待っていればいずれ来ますよ。というその顔は、何かこの世のつまりは人間界の極秘事項を知っていて、それをあなただけに教えていますよという顔に見え、私の顔は果たして寝起きのようなだらしがない顔をしていないか、鏡ですぐに確認したいほどその顔は、ぎりぎりでこの世だった。
15分ほど前にこの場に到着して、15分間静かに空を見ていた。こんなにもずっと空を見続ける行為は生まれてからはじめてで、正しい空の見方が分からなかった。漢字も分からず、見るのかそれとも観るのか。個人的には観るを推したかった。空の顔は無表情だと聞いていたのだが、案外ふとした瞬間にあるべき空らしさが垣間見えた。そうか、空にも表情があるのかと思うと、もう少しだけ観ていてもいいかな考え始めていたときの、
「ここで待っていればいずれ来ますよ」だった。
私達は待っていた。こんなに自然があふれるこの場所で、何を待っているのか。彼がいずれ来るというのだから、間もなくなのだろう。あの空から来るのだ。その時空はどんな顔をするのか。今から楽しみだ。
瞬間に来た。その瞬間は本能的なもので何時何分なんて野暮なことは言わない。来たから来たのだ。
黒い塊になり、彼方から来たのは鳥たちだった。新種の雲ではなく、あれは鳥たちなのだ。遥か彼方から来た鳥たち。間もなくして黒い塊から黒い鳥の塊になり、頭上を飛ぶ頃には黒いてんてんとした鳥たちになった。
その鳥、一羽一羽の足には手紙が括り付けられていた。そう、この鳥たちは彼方よりの配達鳥。誰かの思いを託され飛んできたのだ。
頭上を飛び去ったあとの空は元の静かな空に戻ったが、空の表情はまだ少し緊張していた。
10月9日は「世界渡り鳥デー」