
7月25日は「かき氷の日」
全財産の300円をブタの貯金箱から出す。昔はブタの貯金箱を割ってお金を出していたらしいけど、令和のブタの貯金箱はプラスチック。
このブタはお金が入っていなくても、入っていても太っている。ライザップを勧めたいが、私がコツコツとお母さんのお手伝いをして貯めたお金を、ブタが勝手にライザップに使われると困るので、ブタは太ったままで私のお金を貯めてください。
首から掛けられる財布に300円を入れていざ出発。お気に入りの赤いサンダルを履いて行きます。
近くの神社では今日、お祭りが行われていて、そこでは私の大好きなかき氷の出店が出る。
神社に着くと階段の周りには、いつもはない、提灯がたくさんつるされていて、そこには知らない漢字が色々と書かれていた。
40段はある階段を上る。普段と違い今日は神社から降りてくる人も上る人の数も多い。それに浴衣を着ている人もいる。
境内につくと左右に夢のような出店がたくさん並んでいた。綿あめにりんご飴、お面も売っている。そして私のお目当てのかき氷の出店を発見。
神社にお参りしてから、かき氷を買うか。それとも先にかき氷を堪能してからゆっくとお参りするか。それが問題だ。
私は欲に負けて先にかき氷を食べることにする。
「はい、お嬢ちゃんいらっしゃい」
かき氷の出店のおじさんはニコニコとして、頭にはちまきをしていた。
メニューには「イチゴ」「ブルーハワイ」「レモン」「メロン」と書いてあり、一番最後に「レインボー」とあった。
レインボーってなんだろう? はじめて見る。
「おじさん、レインボーってなに?」
「おや、お嬢ちゃん気が付いたかい? レインボーは虹色のシロップをかけるんだよ」
虹色のシロップか。それはなんとも素敵だ。きっと真っ白な氷の上に七色に輝くシロップがかけられるのだろう。
「おじさん! レインボー1つください!」
「あいよ、300円ね」
なんと! 私は値段のことをすっかり忘れていた。他のシロップが100円なのに対して、なんとその三倍の300円。これではもう他の出店で楽しめない。
しかし、レインボーの誘惑には勝てず、私は財布から300円を出し、おじさんに渡した。はぁ、楽しみ。いったいどんな素敵なかき氷が出てくるのかな。
「はい、おまちどうさま」
おじさんがかき氷を渡してくれた。ついにご対面! 受けとったかき氷を見て私は言葉を失った。そこには何のシロップもかけられていない真っ白な氷だけがあった。
「あの、おじさん……これって」
「お嬢ちゃんもう少ししたら、食べられるから少しだけ待ってね」そう言うと他のお客さんと話し始めてしまった。
なんてこった。まさか詐欺。これが噂の詐欺。
警察に行ったほうがいいのか。真剣に悩む。
そんなことを考えながら、境内を歩く。片手には真っ白なかき氷。首から掛けた財布には一円もない。歩くうちに神社の本殿についてしまった。
すみません、神様。私の計画だと300円のうち10円か20円余る予定で、それをお賽銭にしようと思っていたのですが、さきほどそこの屋台で詐欺にあいまして、と状況を説明していると……。
急に土砂降りの雨が降ってきた。本殿にいた私は濡れずにすんだが、屋台を見て回っていた人たちは慌てて木の下に入って行った。
はぁ、詐欺の次は雨か……。どうやって帰ろうか。
蒸し暑かった境内は土砂降りの雨で少し涼しくなったような気がした。そして雨はものの5分であっという間に止み、またセミが鳴き始めた。
雨が止んだのでそろそろ歩いて帰ろうと本殿から出たところ、目の前の空にはきれいな虹がかかっていた。それは夏休みの絵日記で描いたような偽物のような虹で、大人たちはスマホで写真を撮っていた。
ふと手に持っていたかき氷を見ると、先ほどまでは真っ白な氷には、虹色のシロップが本物の虹のようにかかっていた。
7月25日は「かき氷の日」