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7月30日は「梅干しの日」
昔々ある所に、真っ白な四角い部屋がありました。
その部屋には、
机 椅子
があり、
机の上には
皿があり
その皿の上には、赤くて丸いものが乗っていました。
さぁ、あなたはこの真っ白な四角い部屋の椅子に座っています。あなたが座っている椅子は、長くその場所にリラックスして座るということを前提に考えられてはいない椅子で、金属のとても硬い椅子です。
どうですか? 硬い椅子の座り心地は? 少し周りを見渡してください。あ、いけません! 立とうとしないでください。首を回転させて、そうですまずは右から、そしてゆっくり左へ。そうお上手です。
この真っ白な四角い部屋には窓が一つもありませんね。丁寧に白で塗り重ねられた真っ白な壁は汚れ一つありません。
塗装担当者が一晩かけて寝ないで真っ白に塗ったからです。
さて、お待たせしました。
目の前の皿をご覧ください。ぱっと見は安物の皿のように見えますが、今日のこの日のために作られた一点ものの皿です。シンプルでありながらも気品を感じます。
そして、真ん中に置かれた赤い丸いものは何かわかりますか?
そうです、その赤くて丸くて小さいものです。
まだ触ってはいけません。よく目で見てください。物事には適切な順番があります。椅子を感じ、部屋を感じ、皿を見て。
何事にも順番が必要です、お役所の手続きと同じです。
改めてお聞きします。それが何かわかりますか?
そうです、正解です。素晴らしいです。それは梅干しです。
ではいよいよです。この場所にも十分慣れて頂きました。ご自分の手で、梅干しを持ってみてください。
ゆっくりでいいです。力の加減に気を付けて。
そうです、お上手です。素晴らしい。はじめはなかなか上手く動かせないかもしれませんが、すぐに自分の手のように動きます。
ではそのまま梅干しを口に運んでください。
はい、口を大きく開けて。もっと大きく。
素晴らしいの一言です。お見事です。どうですか? 酸っぱいですか? 目をつむって口を歪めているということは、酸っぱさを感じましたね。
以上で実験は終了です。お疲れ様でした。
映像が終了し、教室の電気が付くと先生は追加の説明を始めた。
「今皆さんに見てもらったのが、我が国で最初に開発され実験に成功した完全没入型VRマシンの試作機の映像です」
「今では家庭用ゲーム機にも転用されている完全没入型VRマシンですが、実験当初は今では当たり前の味覚に対するアプローチに苦戦していました。しかしこの映像でもわかる通り、世界ではじめて梅干しの酸っぱさをVRで再現することができたのです。これにより、完全没入型VRマシンは……」
♪キーンコーンカーンコーン
「では、今日はここまで」
教室から先生は出て行き、つかの間の休み時間はバナナを食べる生徒が多い。
「なぁ、なんで梅干しなんだ? 酸っぱいものならオレンジでもいいよな?」
「分かってないな。前人類の真似だよ。前人類つまり人間は梅干しっていう食べ物を好んで食べていたんだよ」
「はっ、俺たち新猿類はそんな貧乏くさいものなんか食べないけどな」
「お前もバナナ食う?」
「お、サンキュー」
7月30日は「梅干しの日」