〖短編小説〗2月13日は「世界ラジオデー」
この短編は947文字、約2分30秒で読めます。あなたの2分半を頂ければ幸いです。
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目の前で口をパクパクさせている女がいる。鯉かお前は。試しに口の中に食べかけのパンを放り投げてみた。
ぱくっ、もぐもぐ。
お、食べた食べた。おや、人から食べ物をもらったくせに、怒りながらまたパクパク。もっと欲しいのか欲張りな鯉め。
鯉はその後、耳を指す謎のジェスチャーをしたり、首を左右に振ったりしながらエサを欲しがっていた。あ、違うな。
あたしがイヤホン外せばいいのか。一人納得。
「なんでパンを口に入れたの?おーーい?聞いてる?」
現実の世界に戻ると鯉の声がきちんと届いた。
「鯉にはパンだろ普通。あとそんなにでかい声でしゃべるな。あたしは後期高齢者じゃない」
「後期なんだって?それよりさ、何きいてたの?」
鯉のくせに、あたしが何をきていたのか知りたいとは、生意気めっ。逆に鯉は何きくんだろ?滝の音かな。
「、、、、、、寂聴」
「は?じゃくちょう?誰それ?新人?」
お前は本当に世間を知らないな。まぁ鯉だからしょうがないか。寂聴が新人だと、怒られるぞ寂聴に。大ベテランだよ。
「うーーん、ラップかな?寂聴の説法」
「え、マジ?ラップきくんだーなんか意外。ラップかー」
寂聴ごめんね。あたしは本当は違うものをきいてたんだけど、本当のことは言いたくなかったの。
だって、学校の休み時間に深夜ラジオきいてる女子高生って、なかなかいないと思う。だけどあたしはラジオが好き。特に深夜ラジオが好き。頑張ってリアルタイムで起きて、きいている時もあるけど、だいたい寝ちゃう。だから昼間きいている。でも夜の中できくほうが、なんでだろ音が澄んできこえる気がする。
音楽はきかない。なんだかリズムにのってせかされている気がするから。でもラジオだとそれがない…気がする。
友達としゃべるのは一番苦手。だっていつあたしが話す順番か分からない。なんで事前にルールも決めていないのに、みんなあんなにスムーズにおしゃべりできるんだろ。ほんとはおしゃべり開始の1時間前に集まって、リハーサルしているのではと日ごろから疑っている。
その点、ラジオは安心。だってあたしはしゃべらなくていいから。きくだけ専門の人になれるから。笑って、笑って、また来週。
「じゃくちょうって坊主じゃん!まじファンキーなんだけど」
おい、スマホで寂聴の画像調べるな。
2月13日は「世界ラジオデー」