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6月11日は「傘の日」

今日もお父さんからの手紙が届いた。

学校から家に帰ると、お母さんが「届いてたよ。テーブルに置いておいたから」と言った。

わたしはランドセルをおろさずに、そのまま手紙を手にとった。あなたはいったどこからきているの? と個性がない封筒に心の中で聞いてみた。封筒からは特に返事はなかった。

「先にご飯にするよ」とお母さんに言われ、手紙をテーブルに置いた。

夕食後さて、今日のおはなしはどんなおはなしだろう。昨日は天国の話だったけど、今日もそうかしら……。なになに今日のお話は「傘猫」というタイトルだった。


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最近人気の傘の専門店ができたとテレビでやっていた。なんでもそこのお店は一見して傘をさしている姿は何の変哲もないが、傘の内側つまり傘をさしている人にしか見えない部分の装飾に大変こだわっているお店らしい。

実は先日強風で使っていた傘が壊れてしまい、新しい傘を探していた。ちょうどいいと思いその店に傘を買いに行ってみた。

店は思ったよりも狭く、その狭い店の中に様々な種類の傘が所狭しと置いてあった。私は以前使っていた傘のサイズを説明し、同じようなサイズのものを出してもらった。

表面の雨に当たる部分は黒、そして店員さんおすすめでこの店の特徴でもある内側のデザインは、猫が一匹描かれているデザインのものを購入した。最初は男である私が猫が描かれて傘をさすのは恥ずかしいなと思っていたが、よく考えれば傘をさしたときにしか、しかも私にしか見えないのでまぁいいかと思った。

買った時店員さんは、不思議なことを言っていた。

「この猫は少し気の毒な猫です。なんせ猫は雨が嫌いなのに、傘なんかに描かれています。この傘猫は雨が降る前の晩に必ずにゃーと鳴きます。そうしたら次の日はかならず傘をもって出かけてくださいね」

傘を買って数日、いよいよ梅雨に入ったかというタイミングのとある夜。玄関から

にゃーにゃー

と声がする。半信半疑で玄関に向かうと、立てかけてある傘から猫の鳴き声がする。恐る恐る傘を開くと、鳴き声は消えたが買ったときと、猫の描かれている位置やポーズが変わっている気がした。気のせいかな……。

次の日、朝から雨は降っていなかったが、傘猫が鳴いたので一応傘を持って出勤した。最寄り駅から電車に乗り、会社の最寄り駅に降りた時、ちょうど雨が降ってきた。

こりゃすごいな、傘猫!

おかげで濡れることなく、傘をさして会社に到着した。

会社につくと傘立てに傘を置き、仕事に取り掛かった。その日は忙しく少し残業をした。帰るときには雨は上がっていて、うっかり傘を置き忘れてしまぅた。

そのことを自宅に帰ってから思い出し、まぁ会社の傘立てだから盗まれることもないだろうと勝手に安心した。

その夜、傘猫の持ち主と同じ会社に勤める女性は、持ち帰った傘を干そうと家のなかで広げてびっくりした。

私が買った傘の内側は可愛らしい金魚が数匹泳いでいたが、なんとそこにはいつの間にか猫が描かれていて、猫から逃げるように金魚たちは傘の端のほうに固まっていた。

いったい猫はどこから来たのだろう……? 
そうだ! 明日会社の帰りにこの前傘を買ったあの店に行って聞いてみようと思った。

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読み終わった途端に、私は自分の傘が急に見たくなって、玄関に行った。最近買ってもらったお気に入りの青い傘は静かに雨が降る日を待っていた。


6月11日は「傘の日」

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