〖短編小説〗11月18日は「雪見だいふくの日」
この短編は1179文字、約3分で読めます。
※すべてフィクションです。
「今日、免許皆伝を許されているのは君だけだ」
「私だけ…ですか?」
とある建物の地下に設けられた、広い部屋には作業服を着た年配の男性と、
私だけがいる。テニスコートほどある広い空間だが、壁一面になにやら道具が所せましと並んでいる。どれも、調理に使う道具であることは分かるが、素人には何に使うのか分からない道具も多い。
ただ分かることは、どの道具も大変よく管理そして手入れがされていることだ。
部屋の中央にある厨房のような場所で、目の前で話を始めた男を私は知っていた。社内でも目立つ存在ではなく、確か数名から構成されている開発3課の人物だ。名前はたしかヤマモト。
「えーっと、すみません。私一人が今回の研修を受けるということですか?上司からは、研修に参加しろとだけ言われたものでして」
するとヤマモトは一ミリも体を動かすことなく、当たり前のように
「研修ではない、免許皆伝だ」
とだけ言った。
「あの、さきほどからおっしゃっている、免許皆伝って何ですか?意味が分からないんですけど」
「最初は誰しも分からない、今日からがスタートだ。ようこそ、開発3課へ」
慌てて私は質問した。
「ど、どうゆうことですか?私が開発3課?あの…」
しゃべり終わる前に、ヤマモトは早口でこういった。
「君は今日をもって開発3課に異動、またこの3課にて雪見だいふくのだいふくを包むという重要な作業に当たってもらう」
「雪見だいふくのだいふくを包む?えっと、えぇ!?」
私は慌てた、なんせ、わが社の主力商品の名前が出てきたこともそうだったが、それがひとの手で包まれているだと。
「君はもう3課の一員だ。隠す必要もないだろう。わが社の雪見だいふくは、すべて手作業で作られている。機械で作っているというのはフェイクだ。また、開発3課とはダミーの課で、我々と同じ業務を秘密裏にしている者たちが各都道府県に一定数いる。そして、機械では行うことが不可能なのが雪見だいふく作りなのだ。これには卓越した技術と長い鍛錬が必要となる。君は選ばれたんだ」
そう、息継ぎもせずにしゃべったヤマモトの言っていることがその場ではまったく理解できず。後から聞いた話をまとめよう。
雪見だいふくは機械ではなく、代々伝承された人間が手作りで作っていること。そして、世の中には機械で作っていると思わせるようにCGの映像を用意して、テレビで頻繁に流しているそうだ。私も見たことがある気がする。
また、なぜそのような手間がかかることをしているかというと、国民には機械で作っていると思わせた方が、我々に疑いの目が向かず、雪見だいふく包みの秘伝の技が外部に漏れないからだそうだ。
かく言う私も、無事に免許皆伝を許され、開発3課にて日々作業に当たっている。そういえば自己紹介がまだでしたね、私が4代目ヤマモトです。
11月18日は「雪見だいふくの日」