7月6日は「ピアノの日」
白と黒の世界で起きていること。それを似つかわしくない大変に現実的な場所にて体験。
学校というのは建物。それは当たり前。
しかし、そんじょそこらの建物とはわけが違う。朝から夕方まで一生の中で一番に生命力が溢れている10代の若者たちが青春を謳歌する学校は、かならずや長い年月をかけてその10代の溢れ出す生命力を少しずつ吸収して、自己修復している。
あれ、あそこの壁のひび割れが治ってる。
なんだかペンキの色が綺麗になっている。
夕方はその生命力の吸収を一時停止した学校は大変に静かで、生徒全員が死んだ学校はこうなるのかと、また友達に言ったら引かれることを考える。
第一校舎の廊下にて誰もいない廊下にて。
誰もいないと急激に謎の踊りや、変な顔をしたくなったり、意味の分からない歌を歌いたくなる。
廊下を移動しながら、くるくると回転しながら、オスカルのように謎歌を歌う。
「♪~」
何やらピアノの音色。
ほぉ、この学校にわたし以外に生徒がまだいたとは。そう思うと少し面を拝ませてもらおうと、普段は考えないような思いに至った。それもこれも、放課後のマジックだ。生徒がいない学校最高。
技術棟に向かう。
その間もピアノは垂れ流す。ピアノのあの内部から。
音楽室は技術棟の廊下の一番奥。まっすぐ先に音楽室の扉が見える。
廊下を歩く。第一校舎を歩いていた時とは違い、回らないし歌も歌わなかった。人がいる。必ずこの先には人がいる。
視力両目とも2.0のわたしが『音楽室』というプレートを視認するとたん、音楽室の引き戸が突然内側から破られ、
白いものと黒いもの。共にドロドロとしたものがあふれ出てきた。先週NHKのドキュメンタリーでみた火山の噴火のマグマのような粘度だ。
しかし決定的な違いはここは都会の学校であって火山はなく、なにより色が違う。
その白と黒のドロドロは、混ざり合ってもお互いの色を浸食したりせず、お互い尊重しているようだった。
黒いドロドロは白いドロドロの潔い白さと危うさを。
白いドロドロは黒いドロドロの何にも染まらない黒さと強さを。
混ざって灰色にはならずに、押し寄せるドロドロは廊下一杯に広がり、どんどんとわたしに近づいてくる。
あのドロドロに触れるとどうなるか?
わたしは停止し下を向く。黒いドロドロより自分の黒く汚れた上履きを見た。そして、白いドロドロよりかは幾分くたびれた、白いソックスを見た。
恐らくこのままいくと、あのドロドロはわたしの足元からゆっくり浸食してくるだろう。でもわたしの足元の上履きとソックスよりもはるかに洗練された、白と黒のドロドロに飲み込まれてもいいかなと思った。
その洗練さは、わたしを安心すらさせた。怖いとは思わなった。
あの音楽室には誰がいるのかな? とそれだけが疑問だった。
いまだに聞こえるピアノの音色。
押し寄せる。
7月6日は「ピアノの日」