4月7日は「鉄腕アトム誕生日」

「思ったよりも傷みがなくて安心したよ」博士はそう言いながら愛おしそうに通路のパネル盤に触れながら、迷路のように狭く暗い通路を迷うことなく先頭を歩いていく。

そのスピードは誰かに会わせるとかいうことを知らず、はじめて博士に同行した僕は離されないように必死でついていくしかなかった。目に映るものすべてが新鮮で、このシステムは、この装置はなんのためにあるのか一つ一つ止まって博士に聞きたかったが、先頭をゆく博士は久しぶりに会えることへの期待が大きすぎて、僕の声は届かないだろう。

東京といえば、昔は日本の繁栄の象徴だったが今はその影もないのが現実だ。一極集中を嫌う新政府は政治経済の中心を移した。では残った東京の役割は何か、この元1000万人を抱える東京の今は……。

見えてきた中央制御室には、部屋の広さに比べて人が少なかった。教授は担当者と手短にあいさつを済ますと、現実的なたいへん現実的な話を始めた。僕は情けない話だができればその話を聞きたくなかったから、部屋を見学するふりをしながら教授たちから距離を置いた。

無数の制御盤にモニター、前面には超大型のモニターもあり、様々なデータがここに集約されている。ふと部屋の隅をみるとそこには神棚があった。この機械だらけの部屋でいったい何を祈るのか不思議だったし、神の力を神が止めるのかなとも一瞬思ったが、それを止めるのは神ではなく人であるはずで……なんて考えていると、教授が呼ぶ声がして慌てて戻った。

ついにご対面だと教授は機嫌がいい。そこからはさらに厳重なセキュリティを抜けて、炉と呼ばれる場所まできた。

この場所からなら近くで見ることができるとの担当者の説明を聞き、狭い潜水艦の丸い窓のような場所からまず覗いたのは教授だった。教授は「素晴らしい」とだけ言い、次に僕に覗くようにジェスチャーした。

この場合覗かない選択肢は僕には用意されていなかった。覚悟を決めてその丸い窓を覗く。見て後悔すると分かっていながら。

『ASTRO BOY』とプレートに書かれた巨大な円柱の中には僕らの友でありヒーローであった彼がいた。

4月7日は「鉄腕アトム誕生日」




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