9月5日は「国民栄誉賞の日」
俺の死んだじいちゃんが言ってたんだけどさ、そう言いながらこれから何か特別なことを話しますみたいな雰囲気を出すところに、違和感を覚えた。
「うん」
「おれのじいちゃんちょっと、いや大分だな変わってて、ほら灯台あるだろ? あそこの近くに住んで仕事してたんだよ」
「へー、あの灯台か。で何の仕事してたの?」
「うん、くじらを探す仕事……らしい」
「あー、ホエールウォッチングのガイドみたいな?」
「……うーん、それが違うんだよな。じいちゃんが探していたのは空に住んでるくじら? らしい」
とんでもないことを聞いているな、という気分でとんでもないことを聞いていた。なぜ目の前の彼がそんな話を僕にするのか不明だ。空のくじらってなんだ。空飛ぶくじらでもいると言うのか。
僕が黙っていると。
「そんでね」と少し笑いながら「じいちゃんは一回だけその空を飛ぶ? でいいのかな? その空を飛ぶくじらを見つけて、国民栄誉賞をもらえることになったけど、断ったらしいって話」
空飛ぶくじらを見つけると、この国では国民栄誉賞をもらえるらしい。はじめて知った。スポーツなどで活躍した人がもらうものだと思っていたのに。
「じいちゃんは、港町の人たちには『くじらじいさん』って呼ばれていたらしくてさ、国民栄誉賞なんぞはいらねぇって断った。そんな話よ」
どんな話よ、それは。
僕は空に浮かぶくじらをその時想像して、本当に見つけたら、国民栄誉賞なんてどうでもよくなるかもなぁと思い、また『くじらじいさん』の話を聞きたいなとそう思った。
9月5日は「国民栄誉賞の日」