大回り乗車の旅 ふたたび
いつもお読みいただき、ありがたうございます。ミニマリストにしてサウナーの玉川可奈子です。久し振りの旅行記事です。どうか、最後までお付き合ひください。
大回り乗車
今回は、久し振りに大回り乗車の旅に出たことについて書きました。大回り乗車については、以前書いたもの(「大回り乗車の旅」)がありますので、こちらも併せてお読みいただけると幸甚ですが、一応簡単におさらいすると、「特定区間において、同じ駅を通らずに旅行した場合、運賃は最短のものとなる」ルールを利用して鉄道の旅をするものです(言葉が足らなかつたら、申し訳ありません)。
中には、年末年始限定の一千キロを超える旅程もあります。これは私もやつてみたいのですが、どう見ても苦行です。
この日の大回り乗車は、千葉県が主です。房総半島を一周します。
内房線に乗る
旅のはじまりは、最寄りの駅からです。歩いて行きました。
山手線に乗り、まづは秋葉原駅に向かひます。いはゆるクリスマスイブのけふは、よく晴れてゐて気持ちが良いのですが、少し寒いです。冬本番と言ひたいところですが、実は間もなく「春」になります。
ところで、クリスマスなどといふ商業主義的なものに私は興味がありません。また、その日に恋人と過ごしたいなどといふ欲もありません。それに、恋人と一緒にゐる日は全て特別な日だと思ふのです。
秋葉原駅では総武線ホームで一人、次の列車を待ちます。その間に、売店で食料を仕入れ、いはゆるミルクスタンドであたたかい牛乳を飲みました。寒い朝に温かい飲み物はよくあたたまりますね。
さて、次の列車は特急です。新宿さざなみ1号館山駅行きで、終着の館山駅まで行きます。定刻に列車はホームに入線しました。車両は255系です。女子高生が、iPhoneで入線してくる列車を撮影してゐました。進行方向右側の指定席を予約しました。
しばらくは江戸川区や市川市の景色が広がります。朝日がとても眩しいなか、ブラックコーヒーを飲みます。
慢性疲労が抜けず、肩や首が痛い。そしてその痛みが頭痛となり、余計にしんどい。職場のストレス、ですね。皺寄せが下へ下へと向かひ、仕舞ひには前任者の尻拭ひもしなくてはならない…。さうした「労苦」はともかく、せめて全うに生きてゐる人が当たり前に報はれる世の中であつてほしい。そんなことを考へながら車窓を見てゐました。
秋葉原駅から三十分程度で千葉駅に着きました。さらに列車は南へと進みます。蘇我駅を出ると景色は徐々に都会から地方都市、さらに田舎へと変はつて行きます。千葉県への旅は、長渕剛の「JEEP」の歌詞が思ひ出されます。
「西へと走らせてゐるのに、フロントガラスの向かうから太陽が昇るのはおかしい」といふ批判はさておき、リズムの良い、胸に迫る歌詞が好きです。気分は、「昨日までのザワメキが笑ひ始めた」ところでした。
私は芸能人やいはゆるアーティストといふものが好きではありません。なので、さういふのが好きな人の集団には学生の頃から入れませんでした。しかし、長渕剛(あと倉木麻衣)の大ファンでした。剛に関しては、DVDにも映つてゐますし、桜島のオールナイトライブには、祖母に死んでもらひ行きました(念のため、祖母が亡くなつたことにして、夏休みを取得しました。何故か上司に怒られました。なほ、その時に勤めてゐた会社はブラック企業大賞に選ばれてゐます)。
木更津駅の辺りでは、『万葉集』の次の歌を連想します。
馬来田(うまぐた)の 嶺ろの笹葉の 露霜の 濡れて我来なば 汝は恋ふばぞも (『万葉集』巻十四・三三八二)
(馬来田の山の笹の葉に置く露に濡れながら私が行つてしまつたら、お前は一人恋ひこがれてゐるだらう)
馬来田の 嶺ろに隠り居 かくだにも 国の遠かば 汝が目ほりせむ(『万葉集』巻十四・三三八三)
(馬来田の山に隠された他の国にゐるのだが、故郷が遠く離れてばかりゐたら、お前の顔が見たくて仕様がないナ)
馬来田は木更津の周辺で、久留里線に馬来田(まくた)駅があります。共に男性の歌ですが、私も恋人からそのやうに思はれたいものです。
海が見えてくると、そのはるかかなたに雪をまとつた富士山が見えてきます。田子の浦からではありませんが、「真白にぞ 富士の高嶺に 雪は降りける」景色がいとをかしきものです。富士山の歌といへば、赤人の田子の浦の歌よりも、東歌のこちらの歌が思ひ出されます。
会へらくは 玉の緒しけや 恋ふらくは 富士の高嶺に 降る雪なすも (『万葉集』巻十四・三三五八一本の歌)
(会ふのは、ほんのわづかばかりなのに。会ひたくてたまらないのは、富士の高嶺に降る雪のやうです)
館山駅に着きました。風が強く、外は寒いので、待合室で次の列車を待ちました。ホームから富士山が少しだけ見えます。
外房線に乗る
安房鴨川駅行きに乗り換へました。車内はそこそこの乗車具合ですボックス席は全て埋まつてゐたのでロングシートに座りました。千歳駅のあたりで、太平洋が見えてきました。東京湾とはまた違ふ海の景色が見えるのがこの旅の面白さです。有名な撮影スポットである山生橋梁のところで写真を撮れました。
安房鴨川駅に到着、隣のホームには次に乗る特急わかしお12号が停まつてゐました。新宿さざなみ1号と同じ255系でした。車内は閑散としてゐます。わかしおも進行方向右側の指定席を予約しました。海が見えるからです。定刻に発車し、ところどころ太平洋の景色を堪能しました。
勝浦駅を出発してしばらくしたら、少し寝てしまひました。ところで、和歌山県にも勝浦がありますが、こちらは温泉も有名です。某大物YouTube rが行つてゐて、私も行つてみたいと思ひました。
四季島との出会ひ
気付いたら大網駅でした。大網駅で、少し待ち時間がありました。眠気覚しに、レッドブルを飲みながら、次の列車を待ちました。そして、わづか十七分の乗車の東金線に乗り、成東駅で降り、次は銚子駅の一つ手前の松岸駅まで行きました。銚子駅まで行けないのが大回り乗車のポイントです。同じような大回り乗車をしてゐると思はれる人がゐました。
成東駅から松岸駅、松岸駅から成田駅までは読書をして過ごしてゐました。『樋口一葉全集』です。すると、佐原駅ではTRAIN SUITE 四季島が停車してゐました。これは魂消たナア。
恋人とでなくても良いから、いつか乗つてみたいものです。とてつもなく、高いですが…。
かつて勤めてゐた学校で、鉄ヲタの生徒が「四季島はイモムシみたいでダサイ」と言つてゐましたが、そんなことはありません。とても素敵です。
旅のおはりはからあげそばと斎藤湯
時刻は午後四時を周り、車窓にカラスが飛んでゐるのが見えます。『万葉集』には、
からすとふ 大をそ鳥の まさでにも 来まさぬ君を ころくとぞ鳴く(『万葉集』巻十四・三五二一)
(からすといふ大馬鹿者の鳥め。本当に来てくれないあの人なのに、来る、来ると鳴きよつて)
といふ歌があります。「コロク」と鳴いてゐるとする発想と感性が好きです。そして、車窓の右手には筑波山がよく見えます。
筑波嶺に 雪かも降らる いなをかも かなしき子ろが 布乾さるかも (『万葉集』巻十四・三三五一)
(筑波山に雪が降つてゐるのかナア、いやいや、大好きなあの子が布を乾してゐるのかナア)
成田駅ではすぐに成田線に乗り換へました。外はもう暗くなつてます。「釣瓶落とし」とはよく言つたものです。車窓から見る夕陽がとても綺麗です。印西市のあたりでせうか。あかねさすむらさき色の空に心を奪はれます。
夕陽を見ながら、『万葉集』の次の歌を思ひ起こしました。
夕されば み山を去らぬ にの雲の あぜか絶えむと 言ひし子ろばも(『万葉集』巻十四・三五一三)
(夕方になると、あの山にくつつゐて離れない雲のやうに、あなたとの関係が絶えたりするものかと言つてゐた、あの人よ…)
終点の我孫子駅に着きました。ここではホームの立ち喰ひそばを食べます。前回も食べました弥生軒のからあげそばです。今日はからあげ二個そば(630円)に卵を追加しました。七味をどつさりかけて食べるのが好みです。
からあげそばの夕餉をいただき、常磐線に乗り日暮里駅で降りました。電車ばかりの旅ですが、大回り乗車の旅は安く済むし楽しいです。
そして、旅の疲れは日暮里の斎藤湯で癒します。私の好きな銭湯にも書きましたが、斎藤湯はサウナはありませんが、私の大好きな銭湯です。
最後までお読みいただき、ありがたうございました。年内の更新はこれで最後です。また、来年お会ひいたしませう。なほ、更新は毎週月曜日を予定してをります。