旅は学びば
小さな頃から、自分のことは自分でやりたくて、なぜだか漠然と早く自由になりたいと思っていた。子どもなんて基本自由だし、うちの親はもちろん自由にさせてくれていた。自由といっても私の場合は、好きなところに好きな時に行く。要は今いる場所から移動するということだったように思う。
旅がしたかった。どうしてこんな風に思うようになったのか自分でもよく分からない。
けれど記憶を辿れば、小学生の頃にテレビで南米のアンデス山脈に住む人を訪ねる番組を見ていて、日本からこんなに遠くにいる人たちがなぜか日本人のように見えて不思議だったことを強烈に覚えている。
どうしてあんな遠いところに日本人がいるのだろう。いや、実際は日本人ではなくて先住民族のインディヘナだったのだけど、背が小さくて特にカラフルな柄の布に必要品や売り物を入れて背負い、丸っこくて鍔の小さい帽子をかぶってスカートをはいている、何とも可愛いお人形のようなおばあちゃんたちの顔が、日本のおばあちゃんたちに似ていると感じた。
その当時、家にあった電気をつけると山脈が浮き上がる地球儀を眺めて、そしていつしか彼女らに会いに地球の反対側に行きたいという心に秘めた淡い想いを抱くようになっていた。
自由を手に入れるため、生活に彩を持たせるためにバイトをして、自分でお金を稼げるようになると、日本国外へ出るようになった。
一番初めに海外に出たのは学生の頃、シンガポール。しかも女友達4人で。初めての海外は新鮮で見えるものがすべて鮮やかな色を放っていた。異国の知らない香りが鼻をくすぐり、もわんとしたまとわりつく空気。強烈に突然降るスコール。屋台では見たこともない食べ物を味わう。
その頃は英語も全然話せなくて、それでも身振り手振りで笑い返してくれる人たちとのふれ合いは、笑顔の思い出でいっぱい。そして激しい情熱とともに記憶に残った。旅行自体は楽しかった。だけど、何かが違う…帰ってから若干の欲求不満状態が続いた。
人に合わせて動く旅行は自分には合わないのだということに気づいた。
勉強はあまり好きではなかったし、早く学校を卒業したいとずっと思っていた。元々、机のお勉強が苦手なのだ。
それよりも体験授業とかで外へ出たり、人と話すことから学ぶものが大きいと感じていた。語学も学校へ行かなくても必要に迫られれば自然とある程度は覚えられてしまったりするものだ。それらは正に実用的なことであり、生きていく上で役に立つ。
定住はせず衣食住を伴い学び、好きな時に移動できる。
これって旅だ。旅という自分にとって理想の学びばを見つけたのだ。
それから決めた旅先は、ネパール。高校のときの友達と2人で1か月の予定で旅に出た。持っていたのは、バックパック1つと航空券のみ。このネパールでの1か月の旅が私の脳を活性化し変化をもたらした。細胞を進化させ新しい人生を踏み出す勇気を与えてくれた。ワクワクしっぱなし。
旅の友も毎日行動を共にすることもなく、お互い好きに動いていた。
誰にも何も言われず、朝起きてから何しよう。何かしてもいいし、しなくてもいい。寝たいだけ寝て、気の向くままに飲みたいものを飲み、食べたいものを食べ、話したい人と話し、行きたいところに行く。
「ずっとコレがしたかった!!」こころが歓喜の声を上げ叫んでいた!ような気がする。本当にこんな贅沢なことがあるだろうかと思うほど、ただそこにいられることに満足し嬉しかった。
たとえ、そこは1泊150円ほどの安宿のベッドの上であっても。たとえ狭くて古ぼけた店の1皿40円ほどのモモ(ネパール蒸し餃子)をほおばっていたとしても。いつもそこには何かしらの刺激というハプニングと人の温かみがあった。
そして、旅への淡い想いを初めて抱いた小学生の頃から20年後には中南米へ。インディへナの女性の隣にいて微笑む私がいた。子どもの頃に会いに行ってみたいと思っていたインディへナの、昔ながらの生活をしている人たちから彼らの生活を垣間見させてもらい時間を共有することができた。
もちろんインディへナだけに限られたことではないけれど、特に国外へ出て感じ学ぶことが多いのは「足るを知る」ということ。
こころ豊かに、たとえ何かが足りなくても家族との和やかな関係性、自然と共存共生すること、神に祈り心穏やかに毎日を過ごすこと。創意工夫をして、ないものはあるもので対処することができるということを知っている。
過酷な環境であるとすれば、誰しもに明日が本当に来るかなんて誰にも分からない。だから健康で毎日を満足に過ごし生きていることに感謝する。神に、家族に。
実際には生活にゆとりがあるに越したことはない。けれど生きているだけでいい。人生を豊かにするかどうかは本人の思いと行動にもよる。生きていることがどれほどの贅沢であるかということに気づくことにより、世の中はより平和に和やかになれるのかもしれない。
旅から学ぶことは多く私のバックグラウンドを間違いなく作り上げた。
異文化を知ることによりたくさんの経験、知識、判断力、適応力、調和することを学び、私の人生は格段に豊かになった。
もちろん、その中での恋愛や人間関係、人とのつながりは最も大切で芳醇な香りを持ちパンチの効いたスパイスとなっている。
旅にはすべてがある。これからも私の一生の学びば。
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