「どんな声をかければいいかわからない」と言われて。
私より20歳ほど年上の、とても可愛くておしゃれで仲の良いお客様。
少し深刻な顔をして、目を潤ませながらお店に現れてこう言った。
「お店やめるって聞いて、カナコちゃんにどんな声をかければいいのかわからなくて・・・」
私は一瞬わけがわからない気持ちになった。
「どんな声をかければいいのかわからなくて・・・」という言葉は、「悲しいことや辛いことが起こった人に対しての感情」だと思っていた。なので、特に何も悲しいことがない現状、逆に私に何か悲しいことでも起こっているのかな?と思いを巡らせてしまうくらい不思議に思った。けれど、、、彼女と話していてしばらくして意味が汲み取れた。
お店が後1ヶ月で閉店することを知って、以前からよく来てくださっていた彼女はとても寂しい気持ちになり、お店を訪れるのも躊躇するくらい感情が揺さぶられ、悲しくなってしまったとのこと。
SNSをあまり見ない彼女は、私の今までの動向や発言をあまり知らない。
私が次の楽しみをワクワクしながら、自由に活動するために、大きく悩むこともなく辛い思い悲しい思いもなく、新しい未来のためにお店をやめることを知らない。
お店で会う、ニコニコした楽しげな私しか知らない。
きっと、彼女が思う「閉店」とは、続けたくても続けられない状況による末の決断というイメージなのかもしれない。店主である私は、複雑な思いや切なさや寂しさを抱えて、何度も悩み苦しみ、その末で大きな決断をしたのだと思ってくれたのだろう。もしかしたら大きな借金でもあるのかもしれない(事実あるけど)、経営が立ち行かなくなったのかもしれない、生活に困っているのかもしれない、、、など、いろんなことを自分の事のように思い悩んでくれたんだろう。
それゆえの「かける言葉がわからない」だったようだ。
私はあっけらかんとしすぎていて、なんだかとても失礼なことをしてしまった気がした。
多くのお客様が、私が発信する情報を先に知っている状態で来てくれて、事実ほとんどのお客様が「次が楽しみ!」と言ってくれていた。
なので、そんな風に考えてくれる人がいると想定していなかった。
でも、話しているうちにその不一致感は少しずつ拭われ、私は彼女の心配してくれた気持ちを大事に汲み取りながらも、「辛くてやめたんじゃないよ、大丈夫、これからもきっと楽しいことがあるからね。」というようなことを伝えた。
話しているうちに、「そうか閉店ってネガティブなことばかりじゃないんだ、私がいつも見ていた明るいカナコちゃんは辛い気持ちでいたわけじゃないんだ、よかった、それなら良かった」と、気づいてくれたようだ。
結局最後まで目を潤ませて、でもちょっとだけルンルンした雰囲気で、きっとまたどこかで会えるね!と言って帰っていった、彼女はいつも私たちのことを大好きでいてくれる、優しい人。
今、毎日毎日いろんなお客様が訪れてくれて、今まで話したことがない人までも「閉店」をキーワードに話すきっかけができている。人それぞれの関わり方があり、思いがあり、泣いたり笑ったりしながら感情をダイレクトに伝えてくれる。
私は笑いながら「ふふふ、やめちゃうんですよ」なんて言ってるけど、それは少しでも深刻な雰囲気から遠ざかろうとしているのかもしれない。
さて、あと1ヶ月。
自分が楽しいことをしてたらうっかり周りも楽しくならないかな?という気持ちで活動しています。応援してもらえるととても嬉しいです!