日本語の美しさを改めて考え直したいと思ったオペラ
私は新国立劇場に行くのが好きで、コロナの影響で公演が中止になる前はよくオペラやバレエを観に行っていました。
現在はありがたいことに、「巣ごもりシアター」という、オペラ・バレエの配信があるので、自分の部屋を暗くして鑑賞するのが最近の日課となっています。
もちろん生で見る舞台に勝るものはないのですが、オンライン観劇では表情やしぐさなど細かいところまで映し出されますし、巻き戻したり、繰り返して見ることができるので、劇場とは違った良さがあります。
先週から配信されていた『紫苑物語』。かなり衝撃的な作品でした。
このオペラは、石川淳の小説『紫苑物語』をもとに、日本の作曲家と演出家の方によって作られた、「日本の」オペラです。キャストの方も、指揮者の方も日本人です。
日本のオペラを見るのは初めてで、観る前はどんなものか想像できませんでした。平安時代の物語と書いてあるので「雅な雰囲気のある作品だったりするのかな」なんて思っていました。
ですが実際に感じたのは、とても不気味でひやひやとした雰囲気でした。凄みがあって圧倒されるけど、自分の頭では何が起きていたのか理解できない。
物語的には「射殺す」場面など恐ろしい出来事がありますし、音楽的にも独特な音の使い方や唱法が多いので、そう感じたかもしれません。
しかしそれ以上に、日本語の響きの壮大さに圧倒されたのかもしれません。自分の母語であるのに、初めて聞いたような言葉の響きを感じました。
外国語のオペラを見るときは、「細かい意味はわからないけど、美しい響きだな」と思っています。一方で、日本語ではそれで済まされるべきではないように思えて、改めて日本語の世界を知ってみたいなど思うきっかけになりました。
私が知らなかった言葉のひとつは、枕詞などの和歌の言葉です。例えば、『紫苑物語』では「ぬばたま」という言葉が出てきました。
調べたところ、「ぬばたま」というのは、ぬばたまという実が黒いところから、「黒し」「黒髪」などの黒いものにかかり、さらに「黒」から連想して「髪」や「夜」などにかかる枕詞のことです。
ひとつの言葉でこんなに多くの物事が連想されてしまうのか。想像力が働いていて、知識がないと理解できない言葉です。逆に、意味を知っていたら、歌や文章を読んだときに見える景色が違ってくるのかな、とも思いました。
ということで、早速、新国立劇場の『紫苑物語』のパンフレットと、石川淳の小説を注文し、読んでみようと思います。
頭の中にある、言葉の世界が広がりますように。