【ワーホリ国際恋愛体験談】 ⑧ 夢をみてるだけよ 香港の男inパース
☆前回までのあらすじ☆
29歳、初ワーホリでオーストラリアにやって来た!
いろんな出会いと別れを経験しながら、ケアンズ、東海岸と旅をして…
☆用語解説☆
・ワーホリ: ワーキングホリデービザ(若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはその保持者。
・バッパー: バックパッカーズホステルの略。安宿。
※この記事はほぼノンフィクションです。誰かに迷惑が掛からないようちょっとだけフィクションを混ぜてます。
***
(本編ここから)
南半球にあるオーストラリアは、日本と四季が真逆となる。
12月の真夏のケアンズから始まった私のワーホリ生活は、東海岸を周って西海岸パースにやって来た頃には、オーストラリアで初めての冬を迎えようとしていた。
西オーストラリア州の州都パースは思ったより小さかった。
オーストラリア最大の州とは言え、人口はそれほど多くはない。多くは東海岸に集中するのだ。
歴史的に首都は全て東海岸に位置していたし、他国との直行便の数によるところが大きいと思う。
人口の少なさゆえかもしれない。
オーストラリアにやって来てからずっと感動しっぱなしだった空の青さが、この西オーストラリアではより深く、青く感じられた。
パースで宿泊していたバッパーは古めかしいけれどかなり大きくて立派で、格式が感じられる建物だった。以前はちょっとしたホテルだったんじゃないかと思う。
都心からも近くて便利だし、私のお気に入りだった。
このバッパーで出会ったサムは香港出身で、オーストラリアにワーホリでやって来たばかり。
良い家柄のお坊ちゃんなんだろうことは、彼の行動のそこかしこからなんとなく見て取れた。
私は一番安い男女一緒の12人大部屋ミックスドームに宿泊していて、彼は確か6人部屋に宿泊していたと思う。
この頃にはもう、日本人は他のアジア人に人気があるということを自覚していた。
あくまでもアジア限定。アジア以外の人たちにとってはあまりどこの国だろうと関係ない。今の若い人たちにはひょっとしたら韓国人も人気があるだろうか。
とにかく当時は、日本人の私よりも台湾や韓国の人たちの方がみんな日本の流行りのドラマに詳しかった。
大抵どこに行ってもアジア人のグループからは歓迎され、友達になろうと積極的に声を掛けられた。
サムも結局、そんな感じだったんだと思う。
サムはだいたいいつも、同じ香港出身のジェイと一緒だった。
ジェイはサムとは全く違ったタイプで、人当たりが良くて気楽に話せて、良い友達になれそうな感じがした。
サムは私を見かけるといつも声を掛けてくれた。
始めは何でもなくそれに答えていたけれど、だんだんと彼が私に好意を寄せてくれていることに気づき始めた。
悪い人ではないんだろうけど、どうも彼の気持ちには応えられるとは思えなくて、私は彼と親しくし過ぎないように気をつけていた。
その内彼がバッパー内でいつも追いかけてくるようになったので、バッパーに戻ると私は部屋に籠もる時間が増えた。
それぞれの部屋には鍵が掛かっている。
この12人部屋の住人でないサムには入って来れないのだ。
私が部屋に引きこもっているとサムからテキストメッセージが送られてくる。
私は気づかないふりを決め込んでいた。
そうこうして逃げていたら、ある日彼は私と同じ部屋に引っ越してきた。
そのとき空きのベッドは結構あったけど、彼は何だかんだと理由をつけ二段ベッドで私の下の場所を選んだ。
私は逃げられなくなってしまった。
好きだの何だのとは言われなかった。
でもサムは私の行くあちこちについてきた。
ちょっとこれは、本当に困っていた。
そんな中多くの台湾人グループがバッパーにやって来て、数人が私たちと同室に。
アレックスもその一人。
私はサムから逃げるようにアレックスに話しかけるようになった。
不思議なことに日本人にはみんな親しげに話しかけるのに、香港人と台湾人、韓国人の彼らはそれぞれの国出身者でグループを作って他のグループとはあまり交わろうとしなかった。
良く分からないけれど簡単ではない事情があるのだろう。
つまり、アレックスたちと一緒に話している間はサムはあまりやって来ないことに気づいたのだ。
私はいろんなグループを渡り歩いた格好だった。
ある日大きなパーティーがあった。
一緒に行こうというサムの誘いを断り、アレックスたちと一緒に行った。
サムには私の気持ちが彼にないことが、これではっきり分かったと思う。
ある夜、私は夢をみていた。
どんな夢かはっきり覚えていないけれど、良い感じの夢だったんだと思う。
それが突如として嫌な夢に切り替わった。
モゾモゾする気がして、
まるで夢じゃないみたいで、
目が覚めた。
すると二段ベッドの下で寝ているはずのサムの顔が横にあった。
びっくりして上体をあげる。
太ももの辺りがモゾモゾするのでシーツをめくるとサムの手が私の太ももを撫でていた。
なになになに?!
寝ぼけていたのもあって、数秒くらい何が起こっているのか把握できずにいたと思う。
「君のことが好きなんだ。
君のことばかり考えて眠れないんだ。」
泣きそうな顔で私を見つめるサム。
もう片方の手が私の顔に伸びてきた。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ!
え、夢?
いやいやいや、寝ぼけている場合じゃないな、これ。
「やめて!」
彼の両方の手を遮って、周囲を起さないよう小声で言った。
「あなたのことをそういう風には見られないよ。」
サムは今にも崩れそうな表情を見せた。
ちょっと怯みそうになったけれど、いやいや、ハッキリ態度で示さなきゃ。
「あなたはまだオーストラリアに来たばかりだし、私に対して夢を見てるだけだよ。」
言わなくても良かったことかもしれない。でもずっとそう思ってた。
オーストラリアに慣れてもっといろんな国籍の人たちと話すようになったら、ジャパンブランドの魔法なんて消えるだろうと思ってた。
でもサムが彼の同郷の友人ジェイか私以外と話しているのを私は見たことがない。
余計なお世話だろうけれど、もっといろんな人と話すべきだとずっと思っていたのだ。
まだサムは何か言いたそうだったけど私は何も聞きたくなかったし、彼を睨みつけ完全な拒絶の姿勢を見せた。
寝ている無防備な相手を触るってのは、ちょっと無理。
サムは少し気の毒にも思うほど悲痛な表情をしていたけれど、私は自分の体を引き寄せて黙って睨みつけた。
彼はやがて諦め、絶望した顔で自分のベッドに入った。
泣きたいのはこっちだ。
もうやだ!こんなんじゃ眠れない!
下にいるサムがまたやって来るんじゃないかとしばらくは警戒していたけれど、そのあといつの間にかしっかり寝たようだ。
警戒心とは。
女としてどうなの。
翌朝、気づいたときにはサムの荷物が部屋からなくなっていた。
その後私も仕事を見つけ新居へ引越した。
しばらくして彼から会いたいというようなメッセージが何度か来ていたけども、断ったり無視している内にそんなメッセージもなくなり、それで終わり。
一括りにしたくはないけれど、サムといいケアンズで出会ったジェームズといい、香港の男には正直未だに苦手意識がある。