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【ワーホリ国際恋愛体験談】 ⑪ その男、獣につき パースの男 (前編)

☆前回までのあらすじ☆
29歳、初ワーホリでオーストラリアにやって来た!
旅の中でいろんな出会いと別れを経験しながら、パースに辿り着き仕事を見つけて…

☆用語解説☆
・ワーホリ: ワーキングホリデービザ(若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはその保持者。
・バッパー: バックパッカーズホステルの略。安宿。
・パース: 西オーストラリア州の州都の美しい町。
・オージー: オーストラリア人、又はオーストラリアの○○。

※この記事はほぼノンフィクションです。誰かに迷惑が掛からないようちょっとだけフィクションを混ぜてます。

***
(本編ここから)

オージーのベンとは、パース郊外にあった職場の日本食レストランで知り合った。

彼は片言だけれど日本語を話せて、日本人が大好きだと言う。
レストランにはお客として来たのが始まりで、そこで働く日本人たちと日本語を喋りたくて常連となり、その内に裏口から遊びに来るようになったのだそうだ。

お腹に彼の子供を宿した彼のガールフレンドも日本人。
子供が出来ても籍は入れないというのは、パートナー制度があるオーストラリアではごく普通のことである。
大きなお腹を大事そうに支える彼女は、傍から見ていてとても幸せそうだった。

彼は同僚の日本人たちととても仲が良くて、しょっちゅう私たちのシェアハウスにも遊びに来ていた。

彼女が居る人に誤解を生じさせる行動はとりたくなかったのでベンとはそれほど親しくもせず、だけど居れば普通に会話を交わした。
彼が片言の日本語を話してくれるお陰で、英語の苦手な私でも気軽に会話することが出来た。


いつも一緒に遊びに来ていた彼女のお腹は日に日に大きくなり、ベンがひとりで遊びに来ることが多くなったある日。
いつも通りシェアハウスに彼が遊びに来た。

玄関のドアを開け放して、私は家の中で何か作業をしていて、外でベンとシェアメイトがタバコを吸いながら会話しているのが見えた。

ふと、ベンがこちらを見ているのに気づいた。

私は気づかないフリをしたけど、上から下まで、だいぶ、じっとりと見られていたようだった。

見る側は気づかないと思っているかもしれないが、見られる側からは人の視線は結構分かる。

ヤバイ、気がする…。
その後ベンが帰るまで、私は部屋に隠れた。

その日から、職場でも家でも彼のまとわりつくような視線を感じる機会が増えた。
私は彼とうっかり二人きりにならないように、会話を始めることがないように、忙しく動いた。
職場でも、家でも、やることは探せば結構ある。


ある夜仕事が終って帰宅すると、シェアハウスでパーティーをしていて知らないオージーたちが何人も来ていた。
ベンももちろんそのパーティーに来ていて、身重の彼女は家に置いてきていたようだった。

もう既にみんなかなり酔っ払ってる状態。
頭に響く音楽と、当時イリーガルだったにも関わらず普通に出回っていたマリファナの甘ったるいような鼻に絡みつく匂いに気後れした。

バーベキューはまだ準備段階。
待ちきれない私はビールを一本もらい、何かつまむものを探していた。
労働のあとはお腹がすく。乾きもので轟音を響かせていた胃を誤魔化した。

恐れていた通りやっぱりベンが近寄って来た。
他に会話する人も居なかったし、ナッツをつまみながら少し相手をしていると、ベンの周りに他のオージーたちが絡みに来た。

「もー、こっちがカナコと話してるってのに!」

ベンはそんな友人たちからふざけた調子で逃げるように、「カナコ!あっち行こう」と強引に私の手を引いた。
いや、私もっと何か食べたいんだけども。

みんなから隠れるように、誰も居ないバックヤードの影になった一角に連れていかれた。

大概のオージーはみんなデカイが、ベンもデカイ。脂肪と筋肉で、肉の塊となっている。たぶんエナジードリンクの飲みすぎだ。
そんなワケだから、私はガチで力では彼に敵わない。

ひと気の無い暗闇の中、ベンはみんなから隠れる素振りでしらっと腰に手を回してきた。
やばいよやばいよ。

「離して、ベン。あなたの彼女さんに誤解されるようなことはしたくない。」
彼の手をそっと拒んだ。

面倒くさいことだけは本当に勘弁願いたい。ましてや何とも思ってもいない人間のことで。
男がらみだと女同士の付き合いは本当に面倒くさいのだ。

「カナコ、君のせいだ。
最近は君のことばかり頭に浮かんできて何も手につかないんだ。」

普段片言の日本語で話してくれるクセに、このときは英語でばーっと話し始めた。
どうやらどれほど自分が苦しんでいるか、それは私のセイなんだ。と訴えている。

「じゃあもう近づかないで。
私に話しかけないで。忘れて。」

彼の目をまっすぐに見て、私に触れようとするその手を拒んでハッキリ言った。

「君は自分がどれだけ魅力的か知らないのか。
そんなこと出来るワケがない!」

海外の人ってどうしてこうもポンポンと甘い言葉が出てくるのか。
学校で習ってるの?

日本も学校で外国人を講師に招いて恋愛における会話等の勉強しても良いんじゃないだろうか。必修で。
いつの時代だって恋だの愛だのといった歌や小説、漫画、映画、テレビドラマで溢れているんだから、どう考えたって需要はある。
少子化対策に一石を投じるはずだ。

「ごめんなさい。本当にあなたのことはそういう風に考えられないの。」

改めてきちんとお断りをする。
ベンは一瞬怯んだ様子で、両手を下ろした。

彼はトーンを落として言った。
「分かった。
そうか、ごめんね…。」

きちんと言って良かった!分かってくれた。
と一瞬思った私は、この肉団子を甘く見ていた。

彼はこれまでと調子を変えて尋ねてきた。
「君は写真を撮るのが好きなんだよね?旅も。」

「うん…、そうだけど?」
なんだなんだと再び警戒する私。

「僕もね、好きなものがある。」
彼はふいに私の首筋に触れようと手を伸ばしてきた。

それを遮って尋ね返す。
「何?」

「僕は人間の体のディテールが好きなんだ。
ほら、君のこの首筋の美しさったら!
君が美しいものをみて写真を撮りたいと思うように、僕はそういった美しい部分に触れたいと思うんだ。」

再度彼の手が私の首筋に伸びてくる。私も再度それを遮る。

なんなんだコイツは!

あー言えばこー言う。
どうにかこうにかして触りたいだけなんじゃん!
もっともらしく言ったつもりかもしれないけど、もっともらしくなんか聞こえねーよ。アホか!


ベンは私の顔を見ているようで見ていない。
彼からの視線はいつも、ねっとりと私の体の輪郭をなぞっていた。

しかし私は別にスタイルが良いワケではない。日本で言う標準体型だ。
そしてこの頃の私は、私史上で最もぽっちゃりしていた。
それでも、子供以外は男も女も大きいオーストラリアでは、痩せてる方に分類される。

私調べではアジア人には痩せ型が人気だ。
だがそれ以外の国の人たちには、日本人が想像するぽっちゃり体型が一番モテる。
胸やお尻だけでなく、全体的に女性らしい膨らみ、柔らかさが好まれているように思う。

そして重要なのは【くびれ】だ。

細いだけではダメなのだ。ふくよか過ぎても他の外国人との差別化ができない。
柔らかさと腰のくびれが相まってこそ、異国の殿方を引き寄せるのだ。
もう一度断っておくが、あくまでも私調べだ。とても失礼なことを言っているのは承知しているが、今でもあながち的外れでもないと思う。

当時私はギリ標準体型で、胸は無いなりにも私史上最もふっくらとしていて、まだかろうじて腰にはくびれがあった。
このぽっちゃり具合がちょうど良かったのだと思われる。


自分のパートナーが異国でお腹に子供を抱えて一番辛く心細いであろう時期に、子供の父親がコレだ。ありえない!
どっと疲れが押し寄せた。

「今日は疲れたからもう寝る。お休み。」
立ち去ろうとする私。

しかし即座に腕を掴まれる。
「ねぇ!マリファナいっとく?
マリファナクッキーなら美味しいしきっとカナコも気にいるよ。」

いっとかねーよ!

マリファナ、大麻、カンナビスと名前はいくつかあるが、これを摂取するとリラックスするか気分が高揚するかするそうだ。

リラックスさせて、どうでもいいやって気にさせて、ヤってしまえということなのだろう。巷で良く聞く話である。

獣だ…。

こいつは単にヤりたいだけで言葉なんか通じないんだ。
パートナーが妊娠中にコレは無い。

(続く)

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