【ワーホリ国際恋愛体験談】㉑ドラマのような恋を君と 韓国の男(後編)
☆前回までのあらすじ☆
29歳の時に初ワーホリでオーストラリアへ!
1年間のワーホリ期間が終りに近づき、旅に出ることに。
アリススプリングスからのツアーで出会った韓国人キムに気に入られ、彼は次の目的地だったバイロンベイにまでついて来て…
☆用語解説☆
・ワーホリ: ワーキングホリデービザ(若者の異文化交流を目的とした就労可能なビザ)、またはその保持者。
・バッパー: バックパッカーズホステルの略。安宿。
※この記事はほぼノンフィクションです。誰かに迷惑が掛からないようちょっとだけフィクションを混ぜてます。
***
(本編ここから)
キムが残りのホリデイを利用してバイロンベイに滞在する3日間は驚くことが多かった。
私の靴紐がほどけたのに気づいてそれを結びなおそうとしたり、
ちょっと小雨がパラついてくると、持っていた旅行冊子で私の頭上に庇を作ったまま歩いたり、
一厘の花とともに現れたこともあった。
困った。
彼の気持ちを知らないフリなんて出来そうにない。
ちなみに花以外は断った。
私は当時流行りだしていた韓国ドラマをほとんど見ていなかった。
母が観ていたものを後ろから少し見たくらいだ。
韓国ドラマがとてつもなく甘いストーリーだと話には聞いていたけれど、実際の韓国人もドラマ顔負けのベタベタな行動をするとは、このときまであまり知らなかった。
「あまり」というのは、私の友人が韓国人彼氏から花束をもらっているのを2度目撃したことがあるからだ。
友人の彼氏だけだと思っていたけれど、韓国人ってこういうのがフツウなんだろうか…。
好きな人はきっと好きなんだろう。
でも私、こういうのは本当にダメなのだ。
申し訳ないけど恥ずかしすぎて無理。
バイロンベイで再会してからというもの、キムは何かにつけて私に触れようとしてきた。
彼の私に対する気持ちはよく分かった。
だけど無理なものは無理なのだ。
熱い視線を送り続け、私の隣、隙あらば手を握ろうとするキムと一緒に町歩きするバイロンベイ2日目。
とうとう再会した。
本当に会いたかった人に。
遠目でも、半年ぶりでも、すぐに分かった。
後姿だけであの人だと分かった。
私は思わず息を呑んで、立ち止まった。
キムもそんな私に気づいて立ち止まり、私を振り返った。
彼の隣には奥さんらしき人が居て、私の隣にはキムが居た。
彼の名前を呼びたかったけれど、彼が果たして私を覚えているかどうか不安が襲った。
以前会ったのは一日の間のほんの数時間。
会わなかったこの半年の間で私の髪は伸びたし、季節は冬から夏に変わって、私はけっこう肉付きが良くなった。
以前とは印象が全然異なるはず。きっと気づかない。
「カナコ?」
キムが不思議そうに私の顔を覗き込んだ。
「知ってる人なの。
でも会ったのはだいぶ前で、きっと彼は私のことを覚えていないから。」
あの人から目がはなせないまま、キムに言った。
何気なく、あの人が振り向いた。
覚えていなかったらという恐怖を抱えたまま、私は固まってしまって視線が動かせない。
「あ」
と、彼の口が開いたのが分かった。
気づいてくれた!
高鳴る気持ちを抑えて平静を装い、あの人のところへ歩を進めた。
「お久しぶりです。
またちょっとだけ、戻ってきました。」
完璧な余所行きの笑顔をつくれたと思う。
嬉しくて気持ちは舞い上がっていたけれど、何でもない風を装うことは私はうまいのだ。
お互いの連れを紹介し合い、二言、三言、言葉を交わし、「また」と別れた。
歩きながらキムが何か話しかけてきたけれど、耳に入ってこない。
私の気持ちはあの人に覚えてもらえていた喜びでいっぱいだった。
そしてチラリと見えた絵は、相変わらず一瞬で私を虜にする。
あんな才能の塊のような人に覚えてもらえていたなんて!
キムは私の気持ちの変化には気づいていなかった様子。
彼は彼で、自分の高ぶる気持ちと、バイロンベイに滞在できるタイムリミットを気にするので忙しかったようだ。
明日はいよいよキムがシドニーに帰るという日。
お別れの前日はずっと一緒に居たいと言われ、私もこれが最後だからと彼と行動を共にした。
本音はあの人の絵をもっと見たかったし、会いたかったけれど、妻帯者にそんなワガママを言って困らせるのは本意ではない。
どうせ一人で居たってあの人のことを思い出すだけで何も手につかなくなるだろうし。
キムと一緒にカフェに行って、ビーチに行って、たくさん話して、彼がいかに私を想ってくれているか、改めて聞かされた。
彼の熱い気持ちを受けて、辛くなった。
それでも私の頭の中はあの人でいっぱいだった。
その日は夕方から雨が降り出し、だんだんと本降りになってきていた。
夏だったから寒くはなかったけど、あまりに激しい雨だったので庇がある場所まで走ってしばらく雨宿りすることに決めた。
見つけた雨宿りの場所は周囲に誰もいなくて、思いがけず二人きりになってしまった。
絶好の機会とばかりに彼はその想いのたけを訴え始めた。
「最後に君をハグしたい。」
そう言われ、ちょっとだけね、とそれを許した。のがいけなかった。
彼のちょっとは、私の思うちょっとでは済まなかった。
「君の本性を知っている。」
彼はボソッと耳元で独り言のように呟いた。
「君は天使のような顔をしているけれど、実は悪魔だ。」
ぎゅうっと彼の腕が私を締め付ける。
顔を覗くと今にも泣き出しそうな表情。
「君はその天使の笑顔で僕を虜にしておきながら、僕なんて見やしない。
それでいて僕が君に夢中なのを楽しんでいるんだ。」
どこの韓流ドラマの脚本だ。
天使とか悪魔とか初めて言われた。
うちは仏教だ。
キムの気持ちはとてもとても嬉しい。
だけど!
こそばゆいのは仕方ない。
ハハッと、思わず笑ってしまって、いけないと口を押さえた。
「そんな悪魔だと分かってるのに、君から目が離せない。
君のことを考えることを止められないんだ。」
笑っちゃったのが彼をムキにさせてしまったかもしれない。
後ろの壁に追い詰められて私は逃げ場を失ってしまった。
彼の足が私の間に割って入り、お互いの体はこれ以上ないくらいに密着した。
夏の暑さと、雨の湿気で肌がべとつく。
押しのけようとするも上手くいかず、逆に両手の自由を奪われる。
荒い息遣いの彼の顔が近づいてきた。
笑えない状況になってしまった。
迫る彼のキスを一旦かわしたけれど、顔を抑えられて強引に唇を押し付けられた。
いくらキムが細くても、やっぱり男の人に力では敵わない。
私はどうにもできずに彼のキスが終るのを待った。
ホントやだ。
何なの、韓流。
抵抗を諦め静かになったことでキムには私が彼を受け入れ始めたと誤解させたかもしれなかった。
私の手を押さえていた彼の手はジリジリと胸へと移動してきた。
「ダメ!」
という言葉は彼の執拗なキスにより塞がれる。
力いっぱい彼から離れようとするけれど、医者(の卵)のクセして思う以上に力が強い。
またちょっと諦める。
彼の手は服の上から私の胸の上を自由に動き、やがて勢いに乗って服の下に潜りこもうとしてきた。
私オーストラリアでどんだけ乳を揉まれて来ただろう…。
あー、護身術習っておけば良かったなー。
なんて、余裕のないときに今じゃなくて良いことを考えるのはどうしてなのか。
忙しいときに掃除したくなるアレと一緒だ。
脳みそをクールダウンさせようとしてるのだろうか。
無理ー!
と泣きそうになったところで閃いた。
力で押し返せないし、後ろは壁で引くことも出来ない。
押すのも引くのもダメなら、横からだ。
キムのほっぺをおもいっきりつねってやった。力の限り。
彼は怯んで、ついに私を解放した。
「ごめん、キム。
あなたの気持ちは本当に嬉しいよ。
私もあなたに気持ちを返せるか考えてみたけど、でもダメだった。ごめん。」
唇を拭いながら、真っすぐキムを見た。
「私の好きな人は、あなたじゃない。」
正直に思うことを伝えた。
左手で自分の頬をおさえ、もう一方の手で私の肩を持ったまま、彼はじっと私を見つめて言葉を失っていた。
「帰ろう?」
雨が少しその勢いを弱めてきた中、一緒に濡れながら帰った。
キムは静かだった。
お別れの朝。
「名残惜しいよ。
僕はきっと、これからも君を愛しているから。
また、連絡しても良い?」
捨てられた子犬のような表情とはこのことを言うのかと思った。
飼えもしないクセに拾うのは残酷だ。
「連絡はしない方が良いと思うよ?」
何でもない風に、笑ってお別れしようとした。
「君は本当に悪魔だ。」
捨て台詞まで韓流で、またちょっと笑ってしまった。
その後キムからは何度かメッセージがきた。
その頻度は思ったより少なく、でもとても情熱的だったりするので、彼なりに堪えている様子が見え、そんな彼を想像してはちょっとクラクラしてしまうのだった。
韓流、恐るべし。
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