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あんちゃんと宮本さんとロマンスの夜とわたし。

2023年1月16日ロマンスの夜 有明ガーデンシアター
当初2022年11月29日有楽町国際フォーラムで開催予定のコンサートに行くはずだった。宮本さんの40度近い発熱のため週明けのコンサート延期が発表されたのは確か土曜日だったか。前日のテレビ出演キャンセルで発熱を知り、だから仕方がないかなと思った。
ということで国際フォーラム2日目の11月29日に参戦予定だったわたしは、当日いつものように定時退社即帰宅して、いつものようにあんちゃんを抱っこしてゆったりと過ごしていた。
そのままおやすみしたのだけれど、ここ1か月くらいで急激に弱々しくなってきたあんちゃん。昨日も今日も食欲がなくご飯を食べていなかったから、明日お医者さんに連れて行こうか、と話していたところだった。
日付が変わって30日深夜、1:42くらい。あんちゃんの様子がおかしい。
飛び起きた。
あんちゃんはぐったりしていた。
それでも時折、目をあけてわたしたちを見まわしたり、足をパタパタさせたりした。
1時間半くらいそうやってあんちゃんを見守っていた。
暫くしてあんちゃんは寝息をたてたようだった。
あんちゃんをベットに寝かせて、添い寝をしながら少し様子を見ようということになる。
それからすぐ。
3:18。
飛び起きてあんちゃんの呼吸を確認した。
あんちゃんは天使になった。
あんちゃんは咳のようなものを2回したそうだ。
多分それがさいご。
人も犬も息を吸い込んでこの世に誕生し、息を吐いてこの世を去るのだ、と思った。
ここ数日怠そうだったし、意識も朦朧としていたけれど、苦しみ藻掻く様子はなくて、それが救いだった。毎日3回のお薬を頑張ったからね。えらかったね。
最後にみんなであんちゃんを見送ることができて本当に良かった。真夜中にあんちゃんとの時間を過ごすことが出来た。あんちゃんが大好きなおうちで、わたしたちを感じながら安心して旅立つことができていたら嬉しいな、と思った。
あんちゃんはさいごまでかわいかった。
宮本さんのコンサートは発熱のため延期となったわけだけれど、そのおかげでわたしはあんちゃんのさいごの日を、いつものように一緒に過ごすことが出来たのだ。仕事を定時ダッシュして、帰宅してからずっと一緒にいることが出来たのだ。あたたかくてふわふわのベットに、それに負けないくらいあたたかくてふわふわのあんちゃんを寝かしつけた。綿菓子みたいに真っ白なあんちゃん。
宮本さんがこのかけがえのない最も大切で最も愛しい時間をくれたのではないか、とすら思うくらい、わたしにとって奇跡みたいな時だった。こんな大切な時間はきっと他にない。もしコンサートが開催されていたら、多分行っていたと思う。それくらいあんちゃんの事は少なからず予想外だった。だからこそ、行っていたらと考えると恐ろしい。コンサートに行かなかったことで、わたしは愛おしくて最も尊い時を過ごすことが出来たのだ。
11月30日はあんちゃんとずっと一緒にいた。本当に眠っているみたいで、一緒に横になるとうっすら目があいていて、こっちを見ているみたいだった。
かわいいあんちゃん。ふわふわなあんちゃん。愛用していたリサとガスパールのお洋服を着ていて、いつものようにむくりと起きてきそうなくらい、いつものとおりにかわいかった。
12月1日に火葬場の予約がとれたから、この夜はみんなであんちゃんと一緒に寝た。
あんちゃんがうちに来たのは2006年4月15日だから16年以上になる。そして12月2日はあんちゃんの17歳のお誕生日だった。あと3日で17歳だった。本当によく頑張ったね。
花屋で買ってきた花束と、家の庭に咲いていたお花、あんちゃんがよく着ていたミッキーマウスの犬用ヒートテック、あんちゃんと一緒に行った熱海の家族旅行写真とあんちゃんへのメッセージをかいたカードと共に、あんちゃんは天に昇った。
お骨になってもかわいかったあんちゃん。
しっかり形も残っていて
「栄養のあるものを食べてきたんだね。こんなに形がしっかり残っているのは珍しいよ。素晴らしい飼い方をされていたんだね。」
とスタッフの方に言ってもらい、なんだか泣けた。
お骨をひとつひとつ丁寧に説明してくれて、頭の形も、尻尾も、歯も、爪も、喉仏もしっかり残っていた。
小さくて、それでも確かにあんちゃんはしっかりと生きてきた証だ。
曇り空の下、あんちゃんと一緒に家に帰った。

年が明け、あんちゃんの四十九日が1月17日。これを書いている本日だ。
つまり当初のロマンスの夜が11月29日、あんちゃんが天使になった日が11月30日、振替ロマンスの夜が1月16日、あんちゃんの四十九日が1月17日。
これはあんちゃんと宮本さんが連れてきてくれたコンサートだと思った。
職場を早々に出て、あんちゃんと一緒に有明へ。
当初有楽町の夜のために買ったスカートは、あんちゃんを見送る時におろした。そのスカートを履いて有明へ行きたかった、絶対に。
ちょっとお洒落をして、あんちゃんと一緒に席に着いた。
ロマンスの夜一曲目「ジョニィへの伝言」を聴いたら、何故だか急に感極まってしまった。宮本さんが発熱して、あんちゃんが天使になって、有楽町が中止となり、そのチケットを手放し、代わりに有明のチケットとして再びわたしのもとに帰ってきてくれて、今、わたしはあんちゃんと一緒に宮本さんの歌を聴いているという事実が堪らなかった。
これで一区切りだ、と思った。
わたしはあんちゃんと一緒に、もっともっと上に行ってもっともっと幸せになろうと思った。
その静かなる決意を抱いたわたしの中に、宮本さんの伸びやかで優しい歌声がするりと入ってきた。わたしも、そして宮本さんも、有楽町の夜が延期になった時から本当に色んなことがあって、たくさんの事を経て、たくさんの想いを抱いて、今、有明にいるという事実は、わたしを少し心強くした。
「September」が不意打ちみたいにわたしの胸に響いてきて、思わず涙が滲んだ。
一番楽しみにしていた「Fast Love」と「恋に落ちて-Fall in love-」はやっぱり最高だった。宮本さんの弾き語りでしっかりと聴かせてくれたのが嬉しかった。
この2曲はカバーの中でも特に好きだったし、あんちゃんが天使になってからはアルバム『秋の日に』の「愛の戯れ」「恋に落ちて」しか聴くことが出来なかった時期もあったくらいだ。エレファントカシマシでもなく、宮本浩次でもなく、ひたすら宮本浩次の女性に寄り添うような優しい歌声だけに浸りたかった。
「喝采」はとりわけドラマティックで情緒深く、宮本さんの魅力が解き放たれたような圧巻の歌唱だった。
「翳りゆく部屋」を歌ったのは予想外だった。ソロで「悲しみの果て」を聴いた時よりも意外なほど複雑な気分になってしまった。エレファントカシマシのコンサートで、フェスで幾度となく聴いてきたから、わたしの中にずっとエレファントカシマシの「翳りゆく部屋」が残っていて、だからこれはきっと仕方がないことなのだ。ロマンスの夜で唯一胸がちくりとした瞬間だった。とはいえ、どちらが良い悪いというものではなく、ひたすら素晴らしい歌と演奏だった。
ロマンスの夜で微かな違和感のようなものを覚えたのは、小林武史さんから提案されて挑戦したという2曲だった。宮本さん自ら選曲しなかったということに妙に納得してしまったくらい、このコンサートにおいてやや異質に感じたのだった。
とはいえ、この2曲はコンサートの最高潮を迎える位置にあり、実際最も会場全体が熱くなった瞬間だったので文句なく大成功なのだけれど、私の中では得体の知れない違和感が漂ってしまったのだった。
「DESIRE-情熱-」からの「飾りじゃないのよ、涙は」の流れ。個人的には好きなタイプの曲なのだけれど。なんだろう、この感覚は。この2曲は他の曲とは決定的に何かが異なっていて、コンサートの流れが滑らかではなくなったような気がしたのだった。
しかしながら、この2曲がロマンスの夜を引き締めた印象は確かにあるから、きっとこれが正解なのだ。ダンサーを携えて歌う宮本浩次を目の当たりしたことは素直に嬉しいし、理屈抜きに最高のパフォーマンスだった。
終盤の「恋人がサンタクロース」では盛大に歌詞を忘れ、演奏を無理やり止める。
「ここまでやっておいて。さすが俺。」と言い放つのも流石です。
すかさずドラムの玉田豊夢さんがカウントをとって再スタートしようとするのを強引に止めて、歌詞をぶつぶつと確認。すると会場から歌声が沸き上がり、耳を澄ますしぐさをしてから「バラバラですね。」と一蹴。ちょっと2019年のオハラブレイクでの一件が過り、はらはらした事も含めて楽しいハプニングだった。
最後の手段にでた宮本さん、片手を行儀よくピンと挙げて「歌詞見ちゃおっかな~。」と袖のスタッフから歌詞カードを受け取り、ああ!!となってたのが可笑しかった。
「ごめんなさい!!」と例の180度腰を折り曲げ、ペコリしながら謝る。
「ちょっと歯の浮くようなことばっかり言っちゃったから。」という言い訳をして、楽器隊としっかり示し合わせながら仕切り直しスタート。だというのにやや歌詞が怪しかった。当初の予定通りなセットリストなのだろう。1月に聴くクリスマスソングに宮本さんの強い想いを見た気がした。
そしてソロデビュー曲である「冬の花」を披露。抜群の安定感は流石だった。これを今まで発表してきたカバー曲の後に歌うことに宮本浩次という歌手の、ソロ活動の、ひとつの答えを提示されたような気がした。歌謡曲への憧れが「冬の花」という曲に凝縮されていて、そこにはエレファントカシマシ宮本浩次の面影は無く、だからこそエレファントカシマシへの敬意の表れのようにも感じられた。
「この曲でお別れだ!」
そう言って始まったのは「浮世小路のブルース」のようなイントロだった。
ジュリーかな。でもわからない。
帰宅後に「カサブランカダンディ」だと知る。
唯一の男性歌手のカバー。宮本さんが憧れてやまないジュリー。未発表のカバー曲。
子供のころから歌が大好きで、そのころから愛聴していた歌謡曲を、宮本さんはどんな想いで8000人の観客の前で歌いあげたのだろう。
有楽町が有明となり、2公演が1公演となり、それでも無事に開催となったロマンスの夜東京公演。宮本さんはきっと有楽町の夜のチケットを手放した全てのひとたちの想いをのせて全力で歌ったのだろう。有明に来ることが叶ったひと、叶わなかったひと、有楽町に行こうとしていた全てのひとたちの想いをのせて。
大人のコンサートだった。
宮本さんはこれがやりたかったのか。
極端かもしれないが縦横無尽よりもソロ活動の意義が明確に伝わった、と感じた。
宮本浩次の歌を聴きに来て、終始座っていたのは初めてだった。あんちゃんと一緒に、宮本さんの歌だけをひたすら聴き入った。最後の音が消えてから、両手を挙げて拍手をした。静かに熱くステージを称賛した。
初めてあんちゃんと一緒に楽しんだコンサート。
あんちゃんが連れてきてくれたコンサート。
宮本さんが連れてきてくれたコンサート。
宮本さんがくれたあんちゃんとのさいごの夜を、さいごの時間を想いながら、まさに瞬間が全てだと思えた忘れられないコンサートになった。
エレファントカシマシはデビュー35周年。わたしもあんちゃんと一緒に進もう。あんちゃんとならもっともっと上に行くことができるような気がする。
ありがとう、幸せだったよ。

#創作大賞2023 #エッセイ部門 #宮本浩次 #ロマンスの夜

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