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【進路】旦那さんと、ピーターと、THE虎舞竜
高校二年生の夏。
私は進路に悩んでた。
今でさえ、英語の先生になったけど、
当時は、児童福祉士になろうと思っていた。
英語塾の恩師・川崎先生に借りた
「シーラという子」という本を読み、児童虐待という悲しい出来事に対して何か出来ることはないか、という使命感のようなものを持っていたからである。
それと同時に、私はJNSAになりたかった。
児童福祉士よりも、JNになりたかった。
JNSAについての記事はこちら。↓
JNSAの一員になるためには、都内近郊の(しかも比較的偏差値の高い)4年生大学に通っていなければならない。
進路や定める時期が来ていた。
いや、遅いくらいだ。
児童福祉が学べて、都内近郊の4年生大学…。
高校の進路指導室へ行き、大学名がたくさん載った受験案内の本を借りて読み、条件に合う大学をリストアップしてみた。
そのリストの中に、「上智大学」があった。
上智?
あ、宮杯で、私たちの班を担当してくれてたあのお姉さんが通っていた大学だ。
名前も聞いたことがある。多分英語が強くて、おしゃれな大学。上智大学には社会福祉学科がある。条件ピッタリ!やったぜ!
でも、難しい大学だと言うことは、
さすがの私でもわかる。
偏差値調べてみるか。
偏差値、偏差値…、あぁ、そうだ。私、偏差値がなんなのかよくわからないんだった。
とにかく一般試験はめちゃ難しいらしい。
うち高校からの指定校推薦ないかな?
上智はカトリックか。
うちの高校プロテスタントだもんな。
でも、自己推薦って書いてる。自己推薦って何?
条件がクリアできれば、自分で推薦試験が受けれるらしい。条件は、評価平均4.3以上で、英検2級を持っている事。
え!もしや、私、いけるんじゃない?
推薦試験は、小論文と面接?
え!待って。私、いけるんじゃない!?
自己肯定感が高く、田舎の無知な高校生だった私にだからこそ出来るポジティブシンキングで、私は志望校を「上智大学」に決めた。
そうと決めたら数日後、私は当時の担任の先生、ピーター(ニュージーランド人)に、
「先生、私、志望校決めた!上智にした!」
と高らかに宣言した。
ピーターは、
「おぉ、そうか~!じゃあ、まず模試を受けて、過去問も買ってみて、あと小論文の対策と…」と親身になって寄り添ってくれた。
ありがとう、ピーター。
そこから、高3の11月に推薦試験を受けるまでの約一年。
ピーターも、その後の高3の担任の先生も、小論文対策と面接対策を見てくれた進路指導の先生も、あの高校の先生たちは、みんな本当に熱心で、親身になってくれて、優しく厳しく、的確に私を推薦試験まで導いてくれた。
そして結論から言うと、合格させてくれた。
さて、なぜ、この話を今書いているかというと、この話には、後日談があったからである。
大学を卒業して10年後。
長女に次いで、双子を出産し、あまりの育児の大変さに、家族みんなで地元北海道に移住した直後の話。
移り住んだ私の地元、北海道の田舎街で、私の旦那さんは、転職早々、仕事の付き合いで同僚にスナックに連れていかれた。
初めて行ったスナックで同僚と飲んでいると、そこへ、数人のグループが隣のテーブルにやってきた。
その中に一人外国人がいて、その外国人の事を、周りの人が「ピーター先生」と呼んでいたのが耳に入ってきたらしい。
旦那さんが、こっそり隣テーブルの話の内容を盗み聞きすると、どうやら高校の先生たちの飲み会で、ピーターはカラオケで、THE虎舞竜の「ロード」を歌おうとしていたそうな。
さすが、ピーター。
生徒の漢字の間違いを即座に指摘するピーター。
ゴリゴリの北海道訛りを話すピーター。
THE虎舞竜とは、選曲がニュージーランド人とは思えない。
そんな絶対話しかけちゃダメなタイミングで、私の旦那さんは、
「もしかして、ピーター先生って、うちのカミさんの元担任じゃないですか?」と話しかけた。
ピーターはすぐに振り向いてくれて、。
「え!奥さんだれだれ?名前は?」
と聞いてくれ、
「待って待って。歌ってる場合じゃないよ〜。」
とロードをキャンセルしたそうで。
ごめんね、ピーター。
旦那さんが、
「うちの奥さん〇〇カナ(旧姓)です」
というと、ピーターは開口一番、
「カナか~!!あの子は大変だったヨ~!!急に上智いきたいっていうからさ~!高2の夏だよー?もう、どうしようかと思ったよ~!!無理だと思ったも~ん!」と言ったそうだ。
知らんかった!!
そうだったのか。
全然気づかなかった。。。
ピーター、無理だと思ってたのか!!
私は、心底驚いた。
本当に無理だと思ってたの?
だとしたら、ピーターは偉い。
だって、私にはそんな事は微塵も感じさせなかった。
あの時。
私が上智に行きたいと高らかに宣言した時。
ただ、受け入れ、背中を押し、
カナなら出来る!!と応援してくれた。
一度も「お前には無理だ」なんて言わなかった。
ピーターはえらい。
今年5月。
母校の入試説明会に出席するため、
なんと十何年ぶりに母校に足を踏み入れた。
その時、今の副校長(私のケータイを取り上げた憎き国語教師)が
「私たちは、生徒の夢や目標に対して、『それは無理だろう』と絶対に言わないようにしています。必ず寄り添い、応援します。」と話していた。
言うのは簡単だ。
でも、それを実践するのはとても難しい。
私も「先生」だから、よくわかる。
でも、あの高校は、本当に、長年それを実践していた。それは、やっぱりすごい事だと思う。
だから私は、ピーターのような先生になりたい。
生徒が高い目標を掲げた時、
あなたなら出来る、と応援し、
どうやったら実現できるか一緒に考えよう、
と寄り添う先生でいたい。
今はまだまだ、ピーターのようにはなれないけど。
ちなみに、志望校を決めた、あの高2の夏の日。
私は、決心するやいなや母に一番に伝えようと、自分の部屋から出て階段を駆け下り、1階の母の仕事場の扉を開けて
「ママ!私、志望校決めた!上智にした!」
と宣言したのも、よく覚えている。
その時の母の第一声は、
「あれぇ!いいんでしょ!オシャレだねぇ!」
だった。
私の母も、いい母だ。
一言も、
「あんな難しいところ、あんたには無理よ。」
なんて言わなかった。
いや、多分、よくわかってなかった。いい母だ。
私もそんな母、
そして、そんな先生でいたいなと、強く思う。