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花の世界

「お金ってなんだい?」

 目の前のカウンター越しの男は不思議そうに見つめる。
 それはそうだ。この世界ではお金なんて概念はないのだから。

「まあ、そうだね。僕の生きている世界ではそのお金で物と交換できるんだ。お金は働けば貰えるんだよ」
「ふぅん、それが仕事っていうものなんだね。じゃあ、こういう食べ物とか生活用品は仕事をしなければ貰えないのと同じことだよね」
「そういう感じかな」
「じゃあ、仕事を一回すればお金をたくさん貰えるの?」
「人によって、仕事によって違うんだ」
「え。それじゃあ生きるのに苦しい人もいるってこと?」
「そうなるね」
「……それって……生きることが難しいね」

 僕もそう思った。
 この世界に何年入り浸っているかわからないが、お花を育ててそのお花が通貨となる生活は僕の肌に合っていた。
 今までやりたくもないけどやらなければいけないという謎の使命感と自分の矛盾に疑問を抱きながら生きていた時と比べると、伸び伸びと暮らせる。
「仕事をすることで生きることができるのはいいけど……。生きるために死にに行ってる人もいるのか……」
 その考えには驚いた。
 確かに生きるために仕事をして仕事のために死んでいる。
 そんな生活に慣れていたからか、この世界では珈琲店を開いている。所謂仕事をしているわけだが、それでもやはり何かが違う。

 店内には色とりどりの花が咲き誇り、花の香りとコーヒーの香りで来店するお客さんを和ませる。
 ここはそんな世界。
 ここは億万長者やホームレスなんて言葉もない。
 ここは花の世界。


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